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【ざっくり解説】BPマスターとSAP MMモジュール【ECCとS/4の違い】

みなさん、こんにちわ。
SAPは、企業のさまざまな業務プロセスをサポートするERPパッケージとして知られており、多くの企業の日常業務に活用されています。

今回は、企業の購買や在庫管理といった業務をサポートするMaterials Management (MM)モジュールにおいても重要なマスター、Business Partnerマスター(ビジネスパートナーマスター、BPマスター)についてご紹介します。

BPマスターの基本的な概念に加えて、MMモジュールでサポートされる業務との関わりについてもご紹介しています。ぜひ、最後までお付き合いください。

なお、本投稿を作成するにあたって、こちらのYouTubeの内容を参考にしている個所があります。英語の内容にはなりますが、ご興味がございましたら、ぜひ見て頂けるとよいかと思います。

想定される読者

  • SAPコンサルタントやMMモジュールに興味がある方
  • SAP導入プロジェクトで購買、在庫管理を担当する方

想定されるメリット

  • SAPのBPマスターの基本概念が理解できる
  • BPマスターが持つ基本的な項目が把握できる

Business Partnerマスターの概要

Business Partner(BP)は、SAP S/4HANAで実行される業務の中で、取引先(顧客や仕入先)の情報を一元的に管理するマスターです。

MMモジュールにおいては、仕入先、サプライヤーとして活用されることとなります。

SAPが提供する従来のERPシステム、SAP ECC6.0等では仕入先は独自のマスターとしてVendor Masterという名称で管理されていましたが、S/4HANAではBPとして統合され、物資の調達や契約管理、取引の履歴などの情報が一元的に管理されるようになりました。

なお、販売、受注、出荷などをサポートするSD(Sales and Distribution)モジュールでは、顧客、カスタマーとして活用されることとなり、この他にも様々な役割を持たせることが可能となっています。

SAP S/4HANAのMMモジュールにおけるBPの役割

MMモジュールにおけるBPの役割は以下の通りです。

  • 仕入先データの一元化、取引の効率化
    • 仕入先の情報をBPとして一元的に管理することで、調達や契約のプロセスを効率的に進行することが可能になります。とある仕入れ先から何かの品目を購入する際に、毎回仕入先に関する情報を入力する必要がなくなります。
  • 他プロセスとの連携
    • BPを用いることで、MMモジュールと他のモジュールとの間の情報の連携がスムーズになり、統合的なビジネスプロセスが実現されます。例えば、購買のデータを請求、支払いといった会計の業務に引き継ぐことが容易となります。

ECCとS/4HANAの違い

S/4HANAが登場する以前は、SAP ECCが、長らく企業のビジネスプロセスを支えてきたSAPのERPシステムでした。SAP ECCがSAP S/4HANAに移行するにあたって、マスターやトランザクションデータの構造も変化しています。

ここでは、BPマスターに関係するこれら二つのシステムの主な違いについて触れていきます。

ECCのCustomer Master

SAP ECCにおいて、販売相手を意味する顧客の情報は「Customer Master」として管理されていました。このCustomer Masterは、以下の3つの主要なViewに分かれています。

  • General Data
    • 顧客の基本情報(住所、連絡先情報等)
  • Company Code Data
    • 会社コードに関連する情報(支払い条件等)
  • Sales Area Data
    • 販売組織に関する情報(出荷先住所等)

このViewのうち、General DataはCustomer Masterが1つだけ持つもので、その他のCompany Code Data、Sales Area Dataは言葉からもわかる通り、Company CodeとSales Areaごとに持つことが出来るViewとなっています。

グローバル展開している自動車製造企業が顧客であるケースを考えてみましょう。自分たちは、このグローバル企業に対して自動車の部品を納入するメーカーとします。

General Dataには、このグローバル自動車製造企業の基本的な情報が整理されます。

Company Code Dataに属する支払い条件は、日本支社の場合と北米支社に対する販売のケースでそれぞれ異なることがあります。したがって、Company Codeが日本支社の場合と、北米支社の場合で、それぞれ異なるCompany Code Dataが用意されています。

同様に、日本支社の中でも、東日本の拠点が顧客の埼玉県の工場に対して納品する場合と、西日本の拠点が福岡県の工場に対して納品する場合は、出荷先住所等は当然ながら異なります。そのため、販売組織が別々になる場合はSales Area Dataがそれぞれ別々に定義できるように用意されているのです。

ECCのVendor Master Model

ECCにおける仕入先、サプライヤーの情報は「Vendor Master」として管理されていました。Vendor Masterもまた、以下の3つのセグメントに分かれています。

  • General Data
    • 顧客の基本情報(住所、連絡先情報等)
  • Company Code Data
    • 会社コードに関連する情報(支払い条件等)
  • Purchasing Data
    • 購買組織に関連する情報(納入リードタイム等)

このViewのうち、General DataはCustomer Masterが1つだけ持つもので、その他のCompany Code Data、Purchasing Dataは、Company CodeとPurchasing Organizationごとに持つことが出来るViewとなっています。

先ほどのケースに引き続き、グローバル展開している自動車製造企業が顧客であるケースを考えてみましょう。自分たちは、このグローバル企業に対して自動車の部品を納入するメーカーとします。

ここで、設定を追加します。このグローバル自動車製造企業は、部品メーカーに対して、部品の原材料を提供しており、部品メーカーはこの原材料を加工することで部品を製造し、製造した部品をグローバル自動車製造業に提供しているとしましょう。

すなわち、このグローバル自動車製造業は、部品メーカーにとっては顧客でもありながら、仕入先でもあります。

この時、General Dataには、このグローバル自動車製造企業の基本的な情報が整理されます。

Company Code Dataに属する支払い条件は、先ほどのケースと同様に、日本支社の場合と北米支社からの原材料購入のケースでそれぞれ異なることがあります。したがって、Company Codeが日本支社の場合と、北米支社の場合で、それぞれ異なるCompany Code Dataが用意されています。

同様に、日本支社の中でも、東日本の拠点が購入する場合と、西日本の拠点が購入する場合は、納入リードタイム等は当然ながら異なります。この違いは、購買組織の違いとして整理が出来るように、Purchasing DataはPurchasing Organizationごとに定義が出来るように設計されています。

S/4HANAのBusiness Partner Model

SAP ECCでは、先ほどの例でご紹介したような、とある企業が自社にとって顧客でもあり、仕入れ先でもあるというケースでも、それぞれをCustomer Master、またはVendor Masterとして整理する必要がありました。

SAP S/4HANAでは、顧客や仕入先の情報は「Business Partner(BP)」という一つの統一されたマスターで管理されます。

BPは、顧客や仕入先などの異なるビジネスパートナーの役割を一つのマスターとして持ち、これによってデータの重複や矛盾を減少させ、ビジネスプロセスを効率化することに貢献しています。

S/4HANAにおけるBusiness Partnerのデータ構造

S/4 HANAでは取引先と仕入先が統合された、とお伝えしましたが、そうしたデータがどのように管理されているのかをここでご紹介します。

BPマスターでは、「取引先」をBPとして登録し、その後BP Role(BPとしての役割)を設定します。 このBP Roleの中に、顧客やCustomerを意味するRole、仕入れ先やサプライヤーを意味するRole、さらには会計処理で必要となる支払先や請求先、等の役割が含まれており、それらを切り替えることで同一の取引先という情報の下に役割別の情報を紐づけることが出来るようになっています。

なお、このBP Roleは、ここで紹介した以外にも様々な役割を定義することが可能です。

SAP GUIでのBPマスターの確認

SAP GUIでは、Transaction Code:BPを実行することでBPマスターを確認することが可能です。ここでは、画面のイメージをいくつかご紹介します。

Transaction Code:BPを実行した画面は、以下のようになります。

Change in BP Roleという項目がありますが、ここには“FI Customer”と記述されています。すなわち、請求を行う相手としての顧客、という役割としてBPマスターを閲覧している状況である、ということを意味しています。

BP Roleを切り替えると、異なる役割でのBPマスターの情報が確認できます。

Change in BP Roleの項目の隣にある虫眼鏡のアイコンをクリックすると、選択可能なBP Roleが一覧で表示されます。

この中から閲覧したいものや、変更したいものを選択することで先ほどの画面が切り替わり、異なる役割におけるBPの情報が確認できます。

BP RoleはFI Customerにした状態で、General Dataを見てみます。こちらには、BPとしての基本的な項目が整理されています。BPの名称や住所などがあります。

続いて、Company Code Dataを確認します。Company Codeというボタンをクリックします。

Company Code Dataに切り替わりました。もし、General Dataに戻りたい場合は、Company Code Dataに切り替えたことで表示されたGeneral Dataというボタンを押せば、先ほどの画面に戻ることが可能です。

Company Code DataはCompany Codeごとに作ることが可能です。ここでは、Company Code:ZZMMというものが既に選択されており、このCompany Codeに対する情報であるということがわかります。

もし、Company Codeを変更して、別のCompany Codeのデータを見たい場合はSwitch Company CodeのボタンをクリックすることでCompany Codeの変更が可能です。

Company Code Dataに含まれる項目を一つ共有しますと、Reconciliation Account(統制勘定)というものがあります。これは、このBPを相手に販売や仕入れを行ったときにはどの勘定科目を使えばいいのか、という内容を整理する項目です。

例えば、販売であれば売掛金として処理するか、受取手形にするのか、購買であれば買掛金として処理するか、支払手形とするのか、という点を制御することが出来ます。

こうした内容は、やはりCompany Code別に定義するものであるため、Company Code Dataに属しています。

なお、ここで言及しておきたいのが、Company Codeの下にCustomer、Vendorという項目が存在している点です。

このBusiness Partnerは、BPとしては「310」という番号が与えられていますが、Customerとしては「900」、Vendorとしては「855」という番号で定義されているということがわかります。

BPが仕入先でありつつ顧客になるケースもある、というお話をさせて頂きましたが、そうした場合にはSAPの中ではこのようにCustomerとVendorとしてそれぞれ番号が別々に振られており、それを統合するものとしてBPの番号が付けられているのです。

それでは、BP RoleをCustomerに切り替え、Sales Area Dataを見てみましょう。

BP Roleを切り替えると、画面に表示される項目に加えて押すことのできるボタンも変化します。Sales Area Dataを確認するため、Sales and Distributionというボタンをクリックします。

Sales Area Dataに切り替わると、タブの内容が変化したことがわかります。

出荷時に参照するマスターとしての情報などが管理されています。

なお、ここでは、このSales Area DataはSales Org「1000」に対するデータであることがわかります。

続いて、BP RoleをSupplierに切り替え、さらにPurchasing Dataを確認してみましょう。

Purchasing Dataを確認するため、Purchasingのボタンをクリックします。

Purchasing Dataに切り替わると、タブの内容が変化したことがわかります。

購買時に参照するマスターとして、支払い条件や、輸送条件などの情報が管理されています。

なお、ここでは、このPurchasing Organization DataはPurchasing Organization「ZZMM」に対するデータであることがわかります。

以上が、SAP GUIを用いたBPマスターの確認方法のご紹介でした。

Fiori画面でのBPマスター

SAP GUIで確認できる内容は、Fioriでも確認が可能です。 ここでは、簡単にイメージだけご紹介しましょう。

Fioriの画面で、「Business Partner」と検索を行うと、関連するアプリケーションが表示されます。この中で、Manage Business Partner Master Dataを選択します。

Manage Business Partner Master Dataのアプリケーション画面で、BPマスターを検索します。検索結果に表示されたBPマスターの中からどれかを選択すると、BPマスターの詳細の確認や変更が出来る画面へと切り替わります。

基本的には、SAP GUIで確認したものを同じ内容が確認出来ることがわかるかと思います。

選択可能なBP Roleも一覧で表示可能となります。

以上が、FioriでのBPマスターの確認方法でした。

SAPのMMモジュールとの関係

ここまででBPマスターの基本的な内容をご紹介してきましたが、BPマスターはSAPのMMモジュールとはどのように関わっているのかを解説します。

BPマスターは、BP Roleを持つということはすでに述べてきましたが、その中でもMMモジュールとの関係が強いものは「Supplier」、つまり仕入れ先というBP Roleです。

このSupplierというBP Roleが選択されている場合に、BP マスターが画面上に持つ項目がMMモジュールで実行される業務に使用されます。

業務例:発注書(Purchase Order)の作成

例として、発注書(Purchase Order)の作成というMMモジュールでカバーされる業務でのBPマスターの動きを解説します。

BPマスターには、以下のようにデータが存在します。

  • General Data
    • 名前、住所、連絡先情報など
  • Company Code Data
    • 支払い条件、支払い方法、クレジット制限など
  • Purchasing Data
    • 納入リードタイム、輸送条件、購買グループなど

発注書を作成する際、その発注書を送る相手であるSupplierの名前、住所、担当者の電話番号やメールアドレスといった連絡先情報を毎回発注書というトランザクションデータに入力するのは非常に手間です。

ここで、発注書にBPマスターが持つBPの番号(例えば「310」など)を入力すると、これらの情報が全て自動で入力されます。こうすることで、同じ情報を毎回入力する手間を省くことが出来ます。

こうした基本的な情報はBPマスターのGeneral Dataにあるため、BPの番号を発注書に入力することで全て情報の取得が出来ましたが、Company Code DataやPurchasing Dataに存在する情報はBPの番号だけでは自動で取得することの出来ません。

それは、支払い条件などのCompany Code Data上の情報は文字通りCompany Codeがあればあるだけ別々に定義されており、同様に、納入リードタイムや輸送条件などのPurchasing DataはPurchasing Organization ごとに別々に定義されているためです。

したがって、Company Code Dataは発注書にBP番号とCompany Codeが入力されたタイミングで取得され、Purchasing DataはBP番号とPurchasing Organizationが入力されたタイミングで取得が可能となります。

したがって、発注書作成の際にBPマスターの情報を取得したい場合は、BP番号、Company Code、Purchasing Organizationを入力すれば、発注書上で必要になるBPマスターから取得すべき情報は漏れなく取得されることになります。

なお、この他にも発注の対象である品目などの情報は入力する必要があり、その場合は品目マスター(Material Master)のMaterial番号を入力することで情報が取得されます。

終わりに

いかがでしたでしょうか。BPマスターの概要、イメージがつかめましたでしょうか。

今後も、SAPのMMモジュールに関係する内容を投稿してまいりますので、ぜひご覧になって頂けますと幸いです。

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