こちらの投稿では、現在コンサルで業務プロセス設計およびSAP導入をしている投稿者が、SAPの視点に立った在庫管理業務の概要解説を行っております。他にもSAPにおけるSCM領域の記事を投稿しておりますので、気になる方は関連記事のまとめをご覧ください。
また、こちらの記事はSAPよりの目線で記述していますが、より業務側の目線で在庫管理について確認されたい方も同様に関連記事をご確認ください。
ちょっと、物流管理の要素も入っちゃってますので、ご興味のあるところをご覧いただけたらと思います。
Agenda
在庫管理とは?
在庫を受け取る、出す、棚卸を行い、主に数量や状態を管理すること
在庫管理とは、何でしょうか。以前、別の記事にて業務側の視点で在庫管理について解説をしていますが、ここでは念のためおさらいをさせて頂きます。
在庫管理とは言葉の通り、企業が売り上げを出すために必要とする在庫を管理し、売りたいときには売れるように準備をするという活動を管理することです
売りたいときに売れるようにするには、資材や商品といった在庫を、必要な時に必要な場所へ供給できるようにきちんと管理していかなくてはなりません。
なお、在庫管理は、販売を目的とした物品を取り扱うプロセスになりますので、製造業や流通業の企業が持つ業務プロセスとなります。
在庫の定義
在庫の定義にもいろいろあるのですが、一般的な考え方としては、現金化されることを待っているものという表現をすることが出来ます。その際には、そのまま売れるような最終製品だけではなく、製造をしたり、加工をすることで売れるものになっていく、部品や原材料、半完成品や仕掛品なども含まれます。したがって、他社から購入したものも、在庫として管理をしていくことが必要となります。
一点、ご注意頂きたいのは消耗品は含まれない、ということです。
消耗品というと、筆記具やノート、オフィスでみんなが自由に食べていいお菓子などが含まれます。これらは最終的に現金化されるものではないという点はご理解頂けるとは思います。こうしたものは在庫としては扱わず、数量の管理などはしていきません。
SAPにおける在庫管理のプロセス
それでは、SAPにおける在庫管理とは、どういったものになるのでしょうか。
在庫管理の業務プロセスは非常にシンプルで、受け取る、棚入れする、棚卸をする、そして必要に応じて出庫する、といったものです。
詳細に分けていくと、受け取るためにいつ何が来るのか、といった情報を事前に整理してInbound DeliveryといったDocumentにまとめておくといったプロセスが含まれますが、ここからは、在庫を動かすプロセスと、在庫を整理する(数える)プロセスに分け、それぞれがどのようにSAPの中では取り扱われているのかを解説していきます。
在庫を動かす
Material Document:在庫を動かすときに作成するDocument
それでは、SAPの中で在庫を動かす方法を確認していきましょう。まずは、Material Documentについて解説します。
Material Documentとは、SAPのなかで在庫を動かしたときに作成されるDocumentです。在庫を受け入れたとき、払い出したとき、廃棄したとき、場所を変えたとき、ステータスを変えたときなどに作成されます。
逆の言い方をすると、Material Documentを作成することで、在庫の受け入れ、払い出し、廃棄、場所の変更、ステータスの変更等が可能になるわけです。
GR:Goods Receipt、GI:Goods Issueと表現することも
Material DocumentはSAP内で使用されている正式なDocumentの名称なのですが、これだけですと在庫を受け入れたときに作成したものなのか、あるいは在庫を払い出したり出庫したときのモノなのかが区別できませんので、明確に受領したときに作成するMaterial Documentのことを言いたい場合は「GRを作成する」、出庫したときのことについて言及したい場合は「GI」を作成する、というケースもあります。
GRはGoods Receiptなので受領するという行為そのもの、かつ受領書という意味合いになるのでGRを作成する、という表現は良いかと思いますが、GIについてはGoods Issueなので出庫するという行為そのものではある一方、出庫証明書という意味合いにはなりませんので、GIを作成する、という表現は厳密には正しくない点をご注意ください。
在庫を動かす方法=Material Documentを作成する方法
それでは次に、在庫を動かす方法、つまりMaterial Documentを作成する方法についてみていきましょう。Material Documentを作成する方法には、2種類あります。
Deliveryを用いる方法、Deliveryを用いた在庫の動きのパターン
一つ目は、Deliveryに対してMaterial Documentを作成する方法です。Deliveryにも2種類ありますが、1つは入荷指示を意味するIBD:Inbound Delivery、2つ目は出荷指示を意味するOBD:Outbound Deliveryで、これらに対してMaterial Documentを作成することで受領あるいは入庫(GR:Goods Receipt)、そして出庫(GI:Goods Issue)が可能となります。
以下に、Deliveryを用いて在庫を動かす方法の主なパターンを記述します。1つ目はSupplierからの購入、2つ目は倉庫間の在庫転送、3つ目はCustomerへの販売、そして最後がCustomerからの返品要求です。
Supplierからの購入
こちらはSupplierから物品を購入し、受領することで在庫を受け入れるパターンです。
まず購買発注を行い、発注書(PO:Purchase order)をSupplierさんに対して送付します。その後、Supplierさんから出荷の連絡を受け、そろそろ入荷する、というタイミングで入荷指示書(IBD:Inbound Delivery)を作成します。そして、その入荷指示書に対して受領(GR:Goods Receipt)を行うときに在庫が記録されるため、ここで入庫を意味するMaterial Documentが作成されます。
これにより、もとはSAP内に記録のなかった在庫が記録されることとなります。
倉庫間の在庫転送
次は在庫転送のシナリオです。自社に複数の倉庫がある場合、倉庫間で在庫を転送し、バランスをとるということがあります。このとき、まず初めに在庫転送オーダー(STO:Stock Transfer Order)を作成します。
その後、在庫の転送をするためには在庫を出すというところから始まるので、在庫転送オーダーに対して出荷指示書(OBD:Outbound Delivery)を作成します。この出荷指示書に対して出庫(GI:Goods Issue)を行うことで、出庫を意味するMaterial Documentが作成されます。
この時点で、出庫元の保管場所からは出庫した数量分だけ在庫が減ることとなります。
出庫したら、次は入庫の向けた準備として、入荷指示書(IBD:Inbound Delivery)を作成します。こちらの入荷指示書に対して、入庫(GR:Goods Receipt)を行うことで、入庫を意味するMaterial Documentが作成されます。
こうして、入庫場所では入庫した数量だけ、在庫が追加計上されることとなります。
Customerへの販売
続いて、Customerへの販売による出庫のパターンです。
最初にCustomerから受けた受注を、受注伝票(SO:Sales Order)として記録します。この受注伝票に対して、出荷指示書(OBD:Outbound Delivery)を作成し、その出荷指示書に対して出庫(GI:Goods Issue)をすることでMaterial Documentが作成されます。
出庫元の保管場所からは、出庫した分だけ在庫が減ることとなります。
Customerからの返品要求
Customerからの返品要求への対処もパターンとして存在します。このパターンでは、最終的にCustomerに一度販売したものを戻す、という入庫の処理を行います。
ステップの最初は受注伝票(SO:Sales Order)の作成となります。これは返品用の受注伝票で、これに対して返品用の出荷指示書(Return Delivery)を作成します。業務の視点では、こちらはもちろん出荷指示書ではありませんが、SAPのシステムとして、こちらは出荷指示書(OBD:Outbound Delivery)の一部として使用されている点にご注意ください。
そして、このReturn Deliveryに対して入庫(GR:Goods Receipt)を行うことで、入庫を意味するMaterial Documentが作成されます。
なお、この部分は在庫管理の話とは少し外れますが、 この受注伝票の作成の方法もいくつかあります。
こちらのパターンはCustomerからの返品なので、一度Customerには販売をしたことがあるということになります。したがってm販売を行ったときに使用した受注伝票をそのまま返品のための受注伝票として使うという方法と、販売を行ったときに使用した受注伝票を参照して(コピーする形で)別の受注伝票を作成し、返品用の受注で伝票として使用するという方法があります。
どちらのケースも利用できますが、返品の場合は受注伝票の番号を販売の時の受注伝票とは分けて記録しておきたい、などの理由があるとき、または商習慣的に、返品が販売からかなり時間がたってから行われるときなどは後者のオプションが選択されることが大半です。
その他のDelivery使用パターン
もちろん、この他にもDeliveryを用いて在庫を動かすパターンは複数存在します。Supplierさんへの返品の時は発注書(PO)から出荷指示書(OBD)を作成し、出庫GIすることもありますし、または製造外注の時は発注書(PO)に対して出荷指示書(OBD)を作成し出庫:GIすることで部品を出庫し、その後入荷指示書(IBD)を作成して入庫:GRすることで外注して製造してもらった完成品を入庫するというケースもあります。
あるいは、発注書受注伝票も在庫転送オーダーも何も参照せずにいきなりDeliveryを作成し、それに対してGRやGIをするということも可能です。この辺りは、要件次第ですので、どんな業務プロセスが存在するか、必要かを検討したうえで定義していくこととなります。
Transfer postingを用いる方法、そのパターン
在庫を動かす方法には、Trasnfer Postingというものも存在します。Trasnfer Postingは、何かのDocumentを参照することなく、いきなりMaterial Documentを作成することになります。
この方法は、主に倉庫内での在庫の移動や廃棄の時、そしてシステム移行時などに発生する、初期的な在庫の計上のときに使用します。
こちらの図を見て頂けるとわかるかと思いますが、Transfer PostingではMaterial Documentしか作成しません。Deliveryを用いたときはMaterial Document以外にいろいろと作成する必要がありましたが、こちらのケースはシステム処理的には非常に簡便なものとなります。
ただし、実際の業務をすべてTransfer Postingで実行することは出来ません。発注書(PO)や受注伝票(SO)が無ければいくらで買うことになったのか、売ることになったのか、といった情報や支払い条件がわかり失くなってしまいます。したがって、用途は自然と制限されます。
倉庫内での在庫の移動、廃棄
一つ目のパターンは、倉庫の中での在庫の移動、廃棄といったパターンです。物理的に距離が離れている倉庫と倉庫の間を動かすときは、どこからどこに対して在庫を動かすのか、いつ出庫するのか、いつ入庫するのか、といった情報を事細かに整理しておかないといけませんので、そのときはそれぞれ出荷指示書(OBD)、入荷指示書(IBD)を使用するというDeliveryを用いる方法を活用します。
しかし、同じ倉庫の中の在庫の動きであれば、Deliveryを作成するまでもないよね、というときは、いきなりMaterial Documentを作成することで良しとする場合、Transfer Postingを使用します。
同じ倉庫の中に保管場所(SLOC:Storage Location)が複数あるときにその保管場所同士の間での在庫の配置換えを行うというケースでは一方の在庫が減り、もう一方の在庫が増えるという結果になります。
あるいは廃棄をする場合は、廃棄をするまでにその在庫を保管していた保管場所から在庫が減る、という結果となります。
初期在庫の計上(システム移行時などに使用)
もう1つのパターンは、システム移行時などに使用する、初期在庫の計上です。
例えば、ECCという旧バージョンからS/4という新バージョンのSAPに移行するとなったとしましょう。新しく導入するシステムのほうには、まだ在庫が一つもない状況だったとします。このときに、会社の実情に合わせて在庫を入庫していくという作業が必要になるのですが、このときに一括で在庫を計上する際、システム的な処理の簡便性からTransfer Postingが使われることがあります。
PO作成、IBD作成、そしてGR実施、とやるよりは、Transfer Postingで一発でMaterial Documentを作成したほうが簡単だから、という理由ですね。同じ理由で、開発段階におけるテストの目的でもこちらの方法はよく利用されます。
あるいは、自社からCustomerに対して在庫の預託ビジネスをしている場合においては、システムの移行時点で既にCustomerが預託在庫を持っており、その情報もSAP内に記録しておかなくてはいけないときもあります。そんな時は、Customerを指定して、既にそのCustomerは在庫を持っていることを記録するために、Customerに対して入庫をさせるということも出来ます。
在庫を整理する(棚卸し)
Physical Inventory Document:在庫をカウントするときに作成するDocument
それでは在庫の整理活動の一つとして、棚卸しについてみていきましょう。棚卸しとは、在庫の数を定期的にカウントして、帳簿上の数と実際に倉庫にある数があっているかどうかを確かめる活動です。ここではSAPの話をしていますので、帳簿上の数というのは、SAP内で記録されている数、と読み替えてください。
SAP内の記録と実態が違う場合は、SAP側の数を修正していくこととなります。そのため、最終的には在庫を減らしたりすることになるので、ここでもMaterial Documentを作成することになります。その前に、棚卸では専用の棚卸伝票(PI:Physical Inventory Document)を作成します。
こちらがSAPにおける棚卸しの実行方法となります。最初は棚卸伝票(PI)を作成し、これをトリガーにして倉庫内で棚卸の作業を開始してもらいます。棚卸しの作業が終わったら、次に実績としてカウントされた数を棚卸伝票に入力していき、そして最後に数量の差異があった場合はこれらを転記し、Material Documentを作成します。
SAP内の実行手順としては非常に簡単ですが、実作業としてはカウントしていく作業が非常に負荷の高い作業となります。
終わりに
こちらの投稿では、SAPにおける在庫を入庫する、出庫する、といった方法と、棚卸の方法について解説させて頂きました。この他にも在庫管理のシナリオを分ける要素などについても解説しておりますので、よろしければ
をご確認ください。