今回は、マーケットアプローチによる企業価値評価の具体的な方法を振り返っていきたいと思います。マーケットアプローチは、市場での評価、つまりは株価を用いて企業の価値を算定していく方法でした。
ちなみに、このアプローチは、個人的な感覚としてはコストアプローチやインカムアプローチと比較してお手軽に実施できるので結構好きです。事業会社やファンドへ提案に伺う際に、参考情報として持っていくことが多かったです。
基本3種類の概要説明の投稿でも記載しましたが、マーケットアプローチには3つの手法があります。
- 市場株価法
- 類似企業比準法
- 類似取引比準法
これらのうち、どれが使われることが多いのかというと、類似企業比準法となります。類似取引比準法は、一度も使ったことがないので、今回は説明を割愛します。
ちなみに類似企業比準法について、以前の基本3種類の概要説明の投稿では以下のように説明をしていました。
同じ業態、業界、資本構成などの特徴を持つ、類似している上場企業を調べ、それらの企業の市場からの評価額を参考にして、推定します。このときに使う算定方法を倍率法(Multiple法・マルチプル法)と言ったりします。
以前の投稿 - 企業価値評価の基本3種類の概要
この倍率法というものが何かというと、具体的な計算の方法になります。つまり、類似企業比準法も、類似取引比準法も、具体的にどんな計算方法をとるのか(=どんな倍率を推定に使うのか)、という点でさらに手法が分かれていきます。 イメージとしては以下のような感じですね。
市場株価法による株主資本価値の算出方法
それでは、まず市場株価法について、具体例を交えながらやり方を記載していきます。
市場株価法を用いる際の前提条件は、「評価対象企業が上場していること」となりますので、今回は三菱自動車を例にとって見ていきますと、価値算定は以下のようになります。
計算方法は、いたって簡単ですね。これで株主資本価値が算出できました。
この金額を出せば、三菱自動車が買えます。
市場株価法の計算 株主資本価値 = 株価 × 発行済み株式総数 = 時価総額
※非支配持ち分がある場合は差し引く必要がありますが、省略しています。被支配持ち分に関する説明は後半で。
企業価値、事業価値、株主資本価値の関係について
ここまでで市場株価法によって株主資本価値を算出してきました。
次に類似企業比準法、類似取引比準法の計算方法を確認していきますが、この計算にも関連してくる、企業価値、事業価値、株主資本価値というものの関係について、整理しておきたいと思います。
BSを用いて考えていくと整理しやすいので、図を交えつつ説明をしていきます。
企業の資産は収益の源泉となります。
資産は、負債あるいは株式(純資産)により調達された資金により準備されます。
したがって、BS上では資産=負債+純資産でした。
これと同じように考え、企業価値、債権者価値、株主資本価値の関係が、以下のように整理されます。
企業価値 = 債権者価値 + 株主資本価値 企業価値 = 企業全体としての価値、企業の持つ資産から創出される価値 債権者価値 = 企業に対する債権者にとっての価値、企業にお金を貸している債権者が企業から回収できる価値 株主資本価値 = 企業の株主にとっての価値、企業に出資している株主が企業から回収できる価値
次に、企業価値をさらに分解していきます。
企業の持つ資産は、事業用の資産と非事業用の資産に分かれます。自動車関係であれば、自動車の開発などに関係する設備はもちろん事業用資産ですが、定期預金や買掛金の支払いに使用する現金などは非事業用資産となります。
ここで注目するべきは事業用の資産から生み出される事業価です。事業資産から生み出される価値はその企業の本業から生み出される価値であり、ビジネスそのものの価値となるためです。
非事業用資産から生み出される価値を非事業価値とすると企業価値、事業価値、非事業価値それぞれの関係は、以下のようになります。
企業価値 = 事業価値 + 非事業価値
●●価値というものがいくつか出てきました。
ここで、株主資本価値、債権者価値、非事業価値を別の言葉で言い換えていきます。
株主資本価値を、時価総額と言い換えます。
株主資本価値はもともと、株主にとっての価値でした。それはつまり、株式についている価格と、その株式の数をかけた時価総額と見立てることができます。
株主資本価値 ⇒ 時価総額
つぎに、債権者価値を有利子負債と言い換えます。
債権者価値はもともと、債権者にとっての価値と表現していましたが、これを仮に対象企業が倒産したときにも返済が行われるべき負債の金額ととらえますと、有利子負債を言い換えることができます。
債権者価値 ⇒ 有利子負債
そして、非事業価値を、現金及び現金同等物と言い換えます。
非事業用資産の説明のところで軽く触れましたが、現金や現金同等物(定期預金など)は非事業用資産となるわけです。
非事業用価値 ⇒ 現金及び現金同等物
ここまでで確認してきた計算式と、言い換えを用いると、以下のように企業価値、事業価値、株主資本価値の関係が整理されます。
事業価値 + 非事業価値 = 企業価値 ⇒事業価値 + 現金及び現金同等物 = 企業価値 企業価値 - 債権者価値 = 株主資本価値 ⇒企業価値 - 有利子負債 = 時価総額 ⇒事業価値 + 現金及び現金同等物 - 有利子負債 = 時価総額 ⇒事業価値 - 純有利子負債(Net Debt) = 時価総額 ⇒事業価値 = 時価総額 + 純有利子負債(Net Debt)
最後に、非支配持ち分について触れておきます。
非支配持ち分は少数株主持ち分とも呼ばれ、対象企業の株式のうち数%が支配権を持たない範囲で従前の株主(創立者などですかね)に保有されている場合、その株式持ち分のことを言います。
企業価値評価の観点では、流動性の少ない状態で少数株主にキープされている非支配株主持ち分の簿価は、株主資本価値から控除されるべきとされています。
(うーん、自分でも納得がいかないのでもう少し調べよう)
したがって、株主資本価値(時価総額と言い換え)から非支配持ち分を差し引くことで、以下のような式になります。
事業価値 = 時価総額 + 順有利子負債(Net Debt) - 非支配持ち分
今回はいったんここまでにします。
次回は、類似企業比準法による計算の流れをワークシートを用いて振り返っていきたいと思います。
しばらくは旅行に出かけるので、そっちの投稿ばかりになると思いますが・・・