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【ざっくり解説】SAP IBPの基本、Master Data Typeについて

皆さん、こんにちわ。今回は、SAP IBPの基本知識として理解が必要となる、Master Data Typeというものについてご紹介します。

まだまだ日本では導入事例が少なく、SAP IBPの知見を持つ方も少ない状況ですが、SAP社としても日本企業への導入には注力している様子ですので、もしSAP IBPの導入を検討されている、あるいは機能の概要だけでも調査したい、という方がいらっしゃいましたら本投稿が参考になれば幸いです。

想定読者

  • SAP社の提供するSAP IBPの導入を検討されている事業会社のご担当者
  • SAP IBPの導入PJに関与することになった事業会社のご担当者
  • SAP IBPの導入担当となったSIer, コンサルティングファームの方
  • 他ソリューションとの比較検討のためSAP IBPの機能を調査したい方

Master Data Typeとは

SAP IBPにおけるマスターデータはMaster Data Typeと呼ぶ

SAP IBPもほかのSAP製品と同様にマスターデータを持ちます。しかしながら、少々呼び名が変わっていまして、単にマスターデータと呼ぶのではなく、Master Data Typeと呼びます。これはそういうものであるとご理解ください。

S/4におけるマスターデータ、カスタマイズ情報がInputとなる

SAP IBPには、独自に定義するMaster Data Typeももちろんありますが、多くはS/4から連携してきてSAP IBP内に登録します。 その際、S/4内でマスターデータとされているMaterial Master、Customer MasterなどがSAP IBPでも同様の品目、顧客を表すものとして使用されるのであろう、ということは想像して頂けると思うのですが、これと同様にPlantなどのカスタマイズ情報もSAP IBPのMaster Data Type登録のインプットになります。

SAP IBPとS/4の間でマスターデータを連携していても、名称はものによって異なることがありますのでご注意ください。

なお、SAP IBPはS/4やSAP ECCとの連携はサポートしていますが、SAP製品以外のERPやオンプレミスの製品との連携もプログラム開発やマッピング等の工数が必要とはなりますが、サポートしています。

S/4とは設定の粒度が異なるマスターも存在

S/4からマスターデータをSAP IBPに対して連携することが基本的な考えであることはお伝えした通りですが、そのように連携することが基本という考え方でありながらもマスターデータとしての登録時の粒度が異なるものもあります。

よくある例は、Customer Masterです。 S/4ではCustomer Masterというと、個別の顧客、つまり企業のことを指すのが一般的です。しかしながら、SAP IBPは生産、購買、在庫配備などをトータルで計画し全体最適を図るものであるため、特定の顧客レベルまで計画するのではなく、ある程度大きなグループでくくった顧客を計画の対象とするという考え方の違いがあります。

S/4では納品先として個別の顧客の住所情報まで管理する必要があるので、Customer Masterとして登録するのは当然ながら個別の顧客となります。

一方で、SAP IBPでは在庫をどの顧客にどれだけ用意しておくか、という計画を行う作業までを実施し、実際に納品作業はS/4で対応しますので、住所情報まで細かく管理していく必要がありません。

したがって、SAP IBPでは、自社の拠点からの納品リードタイムが同等程度の顧客が複数ある場合は、それらの顧客をまとめてグループとしておき、その顧客グループ全体が必要とする数量を自社拠点で用意しておけば良い、という考えになります。 また、Customer が増えすぎると画面が見にくくなってしまうというデメリットもあります。ここで、SAP IBPで計画策定を行う際のExcel PVを見て頂きましょう。

Customer Regionは顧客を地域別にまとめたもの、Locationは自社拠点を意味しており、Product Groupは自社製品のグループを指します。仮に、Customer Regionが個別の顧客置き換わったとすると、どうなるでしょうか。

Customerの数はSAPを導入するような企業であれば数百から数千と存在します。そうなると、こちらのExcel PVは縦に非常に長くなってしまいます。

従いまして、Customerについては、そこまでして個別の顧客をSAP IBPに登録しておく必要もないし、登録してしまうとExcel PVが扱いにくくなってしまうので、やはりある程度のグルーピングを行ったものをSAP IBPには登録しておこう、となるわけです。

ここではCustomerの例をとって解説しましたが、場合によってはLocation(自社拠点)、Product(自社製品)などもグルーピングしたものを基本の単位として計画策定を行うケースもあるかと思いますので、要件に合わせて対応して頂ければと思います。

Single Master Data TypeとCompound Master Data Typeの2種類がある

Master Data Typeには、2つの種類があります。一つは、Single Master Data Typeと呼ばれるものと、もう一つはCompound Master Data Typeと呼ばれるものです。

Single Master Data Typeというのは、単一で存在することが出来るマスターのことです。

例えば、以下のようなものが存在します。

  • Customer
    • 顧客
  • Product
    • 製品
  • Location
    • 自社拠点

それではCompound Master Data Typeとは何なのか。Compoundは結合という意味を持ちますので、勘のいい方であればすでにお気づきかもしれませんが、Single Master Data Typeを複数結合したものがCompound Master Data Typeとなります。

Compound Master Data Typeには以下のようなものが存在します。

  • Location Product : LocationとProduct
    • どの拠点でどの製品が取り扱えるのかを定義する
  • Customer Source:CustomerとLocationとProduct
    • どの顧客に対してどの拠点からどのProductの納品が出来るのかを定義する
  • Location Source:Locationと別のLocationとProduct
    • どの拠点に対してどの拠点からどのProductを在庫転送ができるのかを定義する

Master Data Typeをメンテナンスする際は、まずはSingleから作り、それらのSingleを組み合わせたCompoundを後から作る、ということになります。

Master Data Typeの項目をAttributeと呼び、Excel PVの軸になる

Master Data Typeには、それぞれ属性項目があります。例えば、Product に対してはProduct Family、Product Groupなどのセグメント情報が登録できますが、これらをSAP IBPではAttributeと呼びます。

そして、Attributeを選択することで、Excel PVの軸を定義することが出来ます。

Productごとの販売計画を作成してみた後で、Product Familyのレベルに集約して販売計画を見てみたい、となった場合にはExcel PV上で使用しているAttributeをProductからProduct Familyへと変更をかけることになります。

Attributeは複数組み合わせてExcel PVを作成することが出来ますので、Product、Locationを選択して拠点別の製品ごとの販売計画を作る、レビューするということもできますし、さらにCustomerをAttributeとして加えて細かい計画を作成してみる、あるいは逆に細かな計画を作成してから集約した状態で見る、ということが出来ます。

計画策定業務に必要なMaster Data Type解説

Master Data Typeは複数あるということはお伝えした通りですが、基本的なものについてそれぞれの意味合いや、どの計画策定にどのMaster Data Typeが必要なのか、という点を簡単にご紹介していきます。

Product

自社製品のマスターです。需要計画、供給計画ともに必要となります。

S/4と連携している場合はMaterial MasterをInputとして、Material Masterと1:1でSAP IBPにもProductを登録することが一般的です。

Customer

自社顧客のマスターです。需要計画、供給計画ともに必要となります。

S/4と連携している場合はCustomer MasterをInputとして、複数のCustomer MasterをRegionなどの他の属性項目でグルーピングした単位に対して、SAP IBPにCustomerとして登録することが一般的です。

Location

自社拠点のマスターです。需要計画、供給計画ともに必要となります。

S/4と連携している場合はPlantがInputになり、1:1でSAP IBPにLocationを登録します。

製造業務の委託や、VMIなどの在庫管理業務を実施している場合は、委託先の場所もLocationとして登録するケースがありますが、その場合は委託先に相当するVendor MasterをLocationとして登録します。しかしながら、距離的に自社拠点であるPlantと委託先が近いのであれば別々にしなくていいもと考える、という整理もあります。

Location Product

どのLocationで、どのProductが利用できるのかを定義します。

需要計画、供給計画ともに必要となります。

Customer Source

どのLocationから、どのCustomerに対して、どのProductが販売できるのかを定義します。需要計画、供給計画ともに必要となります。

特定のCustomerに対する納品は特定のLocationからしか実行しない、というときは問題にはならないのですが、場合によっては複数のLocationから特定のCustomerに対して納品を行うケースがある、というときは、どの程度の割合で納品するのか、という点をこちらのMaster Data Type上のCustomer Sourcing Ratioに定義します。

Customer Sourcing Ratio の定義方法としては、Location:A、BからCustomer:Xに対して60%、40%で納品を行う、という具合に割合を定義します。なお、合計が100%を超えると供給計画作成時にエラーが発生します。

Resource

供給計画を作成する際に必要となります。製造のキャパシティや、輸送のキャパシティなどを考慮するときに、製造を行う機械設備・人員、輸送のための設備・人員を登録します。

設備や人員のキャパシティを超えることがないように管理しなくてはいけないものがあれば、そうしたものをResourceとして登録します。設備も、人員もまとめて一つのResourceにしておくということも可能です。

S/4と連携している場合は、Work Centerと1:1の関係でResourceを登録することがあります。

Production Source Header

供給計画を作成する際に必要となります。製造BOMのHeaderのイメージでとらえて頂くとわかりやすいのですが、どのLocationでどのProductの製造がおこなわれるかを定義します。

また、製造の際には一度にいくつ作られるのか、製造ロットの情報もここで定義します。

ここで指定されたLocationとProductの組み合わせでSource IDが付与され、それがProduction Source Item、Production Source Resourceでも使用されます。

Production Source Item

供給計画を作成する際に必要となります。製造BOMのComponentのイメージでとらえて頂くとわかりやすいのですが、Production Source Headerで定義されたSource IDに対して、製造に使用する、あるいは消費されるProductとその数量を指定します。

Production Source Resource

供給計画を作成する際に必要となります。Production Source Headerで定義されたSource IDに対して、あらかじめ作っておいたResourceを割り当てます。

こうすることで、どのLocationでのどのProductの製造に、どのResourceのキャパシティが消費されるのか、どの程度消費されるのか、という点を定義できます。

Location Source

供給計画を作成する際に必要となります。ここではLocationを2つと、Productを指定し、どのLocationからどのLocationに対して、どのProductを在庫転送することが出来るのかを定義します。

在庫転送を行う側、つまり出荷する側のLocationをShip-From Locationと表現し、受け取る側は通常のLocationと表現されます。

Customer Sourceと同様に、特定のLocationに対する転送は特定のLocationからしか実行しない、というときは問題にはならないのですが、場合によっては複数のLocationから特定のLocationに対して転送を行うケースがある、というときは、どの程度の割合で納品するのか、という点をこちらのMaster Data Type上のLocation Sourcing Ratioに定義します。

Location Sourcing Ratio の定義方法としては、Ship-From Location:A、BからLocation:Cに対して70%、30%で転送を行う、という具合に割合を定義します。なお、合計が100%を超えると供給計画作成時にエラーが発生します。

Transportation Resource

こちらのMaster Data Typeは供給計画を作成する際に使用しますが、任意となります。

もし、製造の時と同様に、顧客への納品や在庫転送といった輸送にもResourceのキャパシティ消費がされ、それらを計画したい時はこちらのTransportation Resourceを使用します。

もし、社外の3PLなどに物流はすべて任せているのであれば、Transportation Resourceを使用することはないでしょう。

使用方法としては、Ship-From Location、Location、そしてProductの組み合わせに対して、Resourceを割り当てるということになります。

UoM Conversion Factor

こちらのMaster Data Typeは需要計画、供給計画ともに使用します。

SAP IBPのExcel PV上では、UoM(数量単位)を一つに決めないといけないという制約があります。どういうことかというと、もし販売計画を作成するとしたら、Excel PV上にまとめて表示している数量単位はPCなどに統一する必要がある、ということです。

例えば、繊維をRollで数えていて、染料をLitterで数えているとき、それらの2つを同時にExcel PV上で表示させたいのであれば、Excel PV上で使用するUoMはRollかLitterか、または別の何かの数量単位に統一する必要があります。

これはもちろん、数量単位がProductごとにばらばらでありながらも同じExcel PV上に表示されていると誤解を生む可能性があるからです。

そもそも数量単位が違うのであれば同じExcel PV上には見せないようにするという方法もありますが、関連性が深いProductであれば数量単位が異なっていても同じExcel PV上に表示したいという要望も当然ながらあるでしょう。

そんな時に使用するのがUoM Conversion Factorです。

この例では、RollをLitterに合わせるのもLitterをRollに合わせるのもなんだか違和感があるので、1Roll = 1EA、 1Litter = 1EAと変換をかけ、Excel PV上ではEAを用いて表示することにします。そうすると、繊維も染料も同時にExcel PV上に表示できるようになります。

なお、UoM Conversion Factorが適切にメンテナンスされていないと、たしかにMaster Data TypeもKey FigureもSAP IBP上のデータに登録済みなのにExcel PV上に表示されない、という事象が発生します。

データの用意をSAP IBPのWeb UIを介して実施したあとでExcel PV上で見てみるとデータが見えない、というときの原因としてはあるあるのメンテナンス漏れなので、ご注意ください。

Supplier、Vendorは登録しないのが基本コンセプト

さて、ここまで複数のMaster Data Typeについてご紹介してきましたが、Supplierは?Vendor Masterは?という疑問をお持ちになった方もいらっしゃるでしょう。

実は、SAP IBPではSupplier、Vendorといったマスターは登録しないのが基本的な考えとなります。

なぜかというと、それはやはりSAP IBPが計画のツールであり、そして購買に関係する計画としてはいつまでにどのLocationでどのProductを何個持っている必要がある、という点までが計画の範囲だからです。

つまり、いつまでに何個必要なのかはSAP IBPが計画する一方で、どこから購入するべきなのかまではSAP IBPは計画せず、SupplierやVendorの選定はS/4などのERP側で実施してほしいから、SAP IBPではSupplierやVendorを登録しません。

その代わりに、このProductはこのLocationでどこかのSupplierやVendorから購入する必要がある、という内容を設定します。それがどこかというと、実はProduction Source Headerなのです。

Production Source Headerで購買するべきProductを定義する

Production Source Headerというと、LocationとProductを指定して、どのLocationでどのProductを製造するのか、という内容を定義していました。

だいぶ癖のある仕様なのですが、このProduction Source Header上に、Source TypeというAttributeがあり、それをPとすると製造がおこなわれるという意味合いになり、Uにすると購買をする必要があるという意味になります。なお、PはProductionの意味で、UはUnspecifiedを意味します。

Pを設定した場合は製造することになりますので、供給計画の結果としてProduction Receipts:製造して受領する数量が計画されますが、Uを設定した場合はUnspecified Receipts/External Receiptsという未設定の方法または外部からの購買によって受領する数量が計画されることとなります。 こちらの仕様、癖があるので忘れやすいのですが、供給計画を作成するときには必要ですので忘れないようご注意ください。

終わりに

本投稿では、SAP IBPの基本として、Master Data Typeについて簡単に解説させて頂きました。 まだまだSAP IBPの基本として理解しなくてはいけないものがありますので、また別の投稿でKey Figureや、Excel PVの使用方法の詳細を解説したいと思いますので、ぜひご覧いただければと思います。

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