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【生い立ち・背景】 MaaSとCASE 【コンセプト】

最近、MaaS、CASEという言葉、流行ってますよね。自動車業界にお勤めではない方も、聞いたことくらいはあるのではないでしょうか。

まずは簡単に言葉の定義を確認してみましょう。

MaaSはMobility as a Searviceの頭文字をとったもので、移動をサービスとして提供しよう、というものです。一方で、CASEは、自動車業界の変革の要素として挙げられている4つ、Connected(接続)、Autonomous(自動運転)、Shared&Serivce(シェアリング、およびサービス)、そしてElectric(電動化)の頭文字をとったものとなっています。

まぁ、なんとなくわかったような気がしますし、一緒に扱われることも多いこの2つの言葉なのですが、実はコンセプトというか、生まれた背景は少々異なります。

今回は、そうしたコンセプトの違いについてご説明したいと思います。

参考にした図書

初めに、参考にした図書を以下に乗せておきます。ストーリーでわかるMaaS&CASEは日本の事例が数多く扱われていて、創業者が事業を起こすまでの背景を書いていたりするので読み物としてもすごく面白いです。

ニューノーマルのほうは、昨今のコロナウイルスの影響を加味して今後の自動車業界で起こっていくであろう変革について述べられています。こちらも、おすすめです。

想定読者

  • 自動車業界に興味のある学生さん、あるいは社会人の方で、今後HotなトピックになってくるMaaSとCASEを知っておきたい方
  • 社会常識として、日本におけるモノづくりで重要な位置を占める自動車関係の重要トピックであるMaaSとCASEを知っておきたい方

メリット

  • MaaSとCASEが生まれた背景がわかる
    (一緒に使われることは多い言葉ではあるが、同じものではないことを説明できるようになる)
  • MaaSとCASEの違い、関係性がわかる
    (一緒に使われることは多い言葉ではあるが、同じものではないことを説明できるようになる)

MaaSの生まれた背景

MaaSはフィンランド生まれ

MaaSという言葉は、2014年にフィンランドで使われ始めました。フィンランドと言えば、携帯電話事業を営むノキアをイメージされる方は多いのではないでしょうか。

実は、このノキアの凋落がMaaSの必要性を生んだともいえるのです。

ノキアは、かつて世界最大の携帯電話機器メーカーでしたが、スマートフォンへの対応がうまくいかず、Microsoftとの提携でWindows Phoneを開発し、巻き返しを図ろうともしたのですがこれもうまくいかず、2013年にはパートナーシップを結んでいたMicrosoftに買収されることとなります。

結果、フィンランド政府は携帯電話事業に代わる事業を、国策として推進していこうと考えるようになります。そこで選ばれたのが、移動のシームレス化、完全統合サービス提供を謳ったMaaSでした。

自動車製造メーカーが無いにも関わらずMaaSが生まれ理由

フィンランドには大手の自動車製造メーカーはありません。ではなぜ、携帯電話事業に代わる国家戦略としてMaaSなのかというと、背景にはフィンランドの抱えていた社会課題と、既存の優れた公共交通網があります。

フィンランドでは、社会課題として、都市部の交通渋滞があげられていました。大気汚染といった問題にもつながりますし、渋滞に巻き込まれている人は通常時に比べて大きなストレスをうけるといった調査結果から、こうした状況を打破する施策が必要とされていました。

一方で、フィンランドの既存公共交通網はとても優れていて、電車、バス、タクシーなどは日本などとは異なり、運営をしている会社が同一の企業であるため、統合サービスを提供するというコンセプトが実現し易かったという背景もあり、公共交通網をさらに有効活用することが交通渋滞といった社会課題を解消する方法としても注目されるようになっていました。

そうした状況に加えて、ノキアの経営不振に伴い、仕事を持たないIT・通信技術者が市場には多く存在していたため、これらの要素を紐づけた結果、国家戦略として電車、バス、タクシーなどの交通網に加えて電動自転車やマイクロモビリティをIT・通信の力でシームレスに接続し、利便性を図るといった統合サービスを一般市民に提供するというコンセプトが生まれます。

政府が交通情報開示、API作成を要請

次にフィンランド政府がとったアクションは、企業に対して交通情報を開示させることでした。こうすることで、交通情報が誰からも確認できるようになるため、企業としてこうした情報を活用したサービスを提供することが可能となります。

ノキアに勤めていた技術者からのコメントもあり、APIで簡単に情報が取れるようにすることも要請されました。

こうして、政府主導のもと、移動手段をサービスとして統合した状態で利用可能とする概念として、MaaS:Mobility as a Serviceという概念が生まれることとなります。

MaaS GlobalがWhimを提供開始

そうした状況の中、サンポ・ヒエタネン氏MaaS Global(当初はMaaS Finland) を設立し、交通事業各社から提供されるAPIを活用して、マルチモーダル、かつサブスクリプションの要素を取りこんだルート案内・予約サービスである、Whimの提供を開始します。

MaaSのコンセプトが生まれたのが2014年、Whimがサービス開始したのが2015年でした。

Whimでできること

以上で、MaaSが生まれるまでをご紹介しました。ここでは、フィンランドで生まれたMaaSアプリ、Whimについてご紹介します。

Whimでは、モバイルアプリを介して、Google Mapのようなイメージで複数の移動手段を用いたルートをUserに見せてくれます。Whimでは、電車、バス、タクシー、シェアサイクル、電動キックボードなどの複数の手段を組み合わせてルートを作成してくれます。

三井不動産が「Whim」のMaaS Globalに出資。街づくり×MaaS本格化へ - Impress Watch

Whimは単なるルート案内のサービスではなく、同じアプリで予約も同時に行うことができ、さらに決済までカバーしています。そして、料金は定額制であり、まさにこのアプリ一本で、移動という行為がシームレスにつながることになります。(都度利用の料金プランもあります)

2021年2月現在、日本では千葉県柏の葉と、東京で出資者でもある三井不動産と協力した実証実験が行われています。(ソースはこちら)

いかがでしたでしょうか。MaaSの成り立ちと、その代表例としてのWhimの概要説明は以上となります。次のセクションでは、CASEについて確認をしていきます。

CASEの生まれた背景

CASEはドイツ生まれ、MaaSの後に使われ始める

MaaSと同様の概念といったイメージを持たれている方も多いのですが、昨今の自動車業界ではCASE(Connected, Automated, Shared and Service, Electric)という言葉がホットです。

この言葉ですが、最初に使用し始めたのはドイツの自動車メーカーである、ダイムラーでして、時期としては2016年でした。つまり、MaaSという言葉が使われ始めたのが2014年なので、MaaSという概念以降に生まれた言葉となります。

ネット企業の参入に触発される形で自動車業界が定義した

MaaSという言葉を生んだのは大手の自動車メーカーが存在しないフィンランドでしたが、ほぼ同時期に自動運転への参入をグーグル等が始めます。2015年には、日本でもグーグルへの対抗という意味合いでDeNAなどが自動運転技術の開発宣言を行いました。

こうした、これまで自動車業界のプレイヤーだけで席巻されてきた自動車業界の売上が、他業種の企業によって脅かされることとなり、ドイツのダイムラーは自動車業界のプレイヤーである自分達自身も革新的な技術開発を行うことの必要性を感じ始めます。

そこで、彼らが既存の自動車業界プレイヤーの生き残りに不可欠である要素として、CASEという概念を提起しました。

CASEは自動車利用を前提とした概念・問題提起

CASEの特徴としては、提唱したのが自動車メーカーであるダイムラーだったということもあり、自動車の利用を前提としている点があります。

MaaSとの比較でいうと、MaaSは移動手段をサービスとして提供するというコンセプトであるのに対して、CASEは自動車を利用することを前提とした、そのうえで自動車の販売を伸ばす、あるいは他社にとられないようにするために自社が備えておくべき自動車のケイパビリティである、と言えます。

つまり、「自動車業界はこれをやっていかないといけない」という問題提起の意味合いを持つわけです。以下に、CASEが自動車業界に投げかける問題提起を簡単にまとめてみました。

  • Connected
    • グーグルなどのネット企業はMachin to Machineの技術を活用し、自動車同士が会話するという仕組みを導入することで事故の検知やトラフィックの予想を行います。自動車メーカーは、自社でやるのか、アライアンスを組むのか、等を考えていく必要があり、サプライヤーも、必要となる部品や装置の変遷に合わせて事業形態を変革していくことが求められます。
  • Automated
    • 自動運転技術は現在ではグーグル、アマゾン、アップル、等の複数企業が参入しています。自動車メーカーはこうした技術を一から作るのか、又はアライアンスを組むのか、戦略的な判断が必要となります。
  • Shared & Service
    • 現在、所有よりも利用という考えに消費者がシフトしています。シェアリングサービスに参入するネットベンチャーなども多くいますが、これについても自動車メーカーは同サービスを展開するのか、どこかと提携をするべきなのか、という判断が必要だ、という指摘になります。
  • Electric
    • 電気自動車と言えば有名な企業はテスラですが、電気自動車が普及し始めると、必要な部品などが大きく変わるので、既存のサプライヤーやメーカーの力関係も大きく変わる可能性があります。内燃機関を用いた自動車をゼロにするわけにはいかないでしょうが、少なくともシェアを少しずつ伸ばしている電気自動車の需要にも対応できる体制を整えないと、テスラの様な他業種からの参入者にシェアを大きく奪われることになりかねないので、対応を考えておきましょう、という意味合いになります。

実際には、自社ですべてをまかなえる自動車メーカーは存在しないため、既に多くの自動車メーカーとIT企業などの間でアライアンスの締結が進んでいる状況です。GMはEVベンチャーのニコラという企業に増資を行い、トヨタはNTT、電通と提携し始めました。

CASEはMaaSを促進する技術、ケイパビリティともいえる

ここまでで、CASEが具体的にどんなものなのか、という点を見てきました。CASEは、概念を考え出したのが自動車メーカーであるということもあり、自動車の利用を前提としています。

一方で、MaaSは手段はどうでもいいので移動という行為をサービスとして統合して提供していこうという概念ですので、CASEはMaaSのうちで、自動車利用の側面を後押しする技術、ケイパビリティであるという見方もできるでしょう。

いかがでしたでしょうか。MaaSとCASE、同じ文脈で使用されることも多い言葉ですが、成り立ちや背景を見てみると、意味合いが異なるということがお分かりいただけたのではないでしょうか。

今後も様々な技術やサービスが開発されることになるかと思いますので、それらの取り上げて概要をお伝えする、ということをやっていきたいと思います。以上、ご参考になりましたら幸いです。

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