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元M&Aアドバイザリーの学び直し – マーケットアプローチの進め方、類似企業比準法の計算手順

投稿日:2019-07-14 更新日:

前回の投稿で、マーケットアプローチにおける市場株価法の方法を説明し、その次に類似企業比準法の計算で用いる企業価値・事業価値・株主資本価値の関係についてまとめました。

今回は、類似企業比準法の計算の流れをワークシートを用いて書いていきたいと思います。

ジェンダ

  1. 倍率法における計算の流れ
  2. 類似企業比準法における倍率計算は事業価値からスタートする
  3. 類似企業比準法の計算手順
  4. 類似企業比準法の例 (自動車会社)

倍率法による計算の流れ

類似企業比準法では、前回の投稿でも記載している通り、倍率法を用います。

倍率法とはどんなものだったかということを再度おさらいしておくと、以下の流れで価値算定を行う方法となります。

  1. 企業の売上高、営業利益、あるいはEBITDAの何倍がその企業の価値(企業価値・事業価値・株主資本価値)に等しいのかを測定する。(これを売上高倍率、営業利益倍率、あるいはEBITDA倍率とする)
  2. 評価対象企業の売上高、営業利益、あるいはEBITDAを、対応する倍率に乗じることで、評価対象企業の価値(企業価値・事業価値・株主資本価値)を算出する。

類似企業比準法の場合は、1のステップにおいて、評価対象企業と類似しているとみられる企業を集め、それらの企業の倍率を算出します。こうして求めた倍率の平均、あるいは中央値を取ることで求められた倍率は、評価対象企業にも同様にあてはまる倍率だと考えることができます。

別の言い方をすれば、同じ業界の企業、同業とみられている企業たちは、売上高、営業利益、EBITDAなどの数値の約xx倍が企業価値・事業価値・株主資本価値と考えられている。

したがって、評価対象企業も同じく、売上高、営業利益、EBITDAなどの数値をxx倍すれば企業価値・事業価値・株主資本価値が求められるはずだ、という考えになります。

類似企業比準法における倍率計算は事業価値からスタートする

ここで、前回触れた企業価値、事業価値、株主資本価値が登場します。

M&Aにおいては、企業の支配権をめぐって株式の取得などが行われますので、最終的に焦点の当たる価値は株主資本価値となります。
しかしながら、倍率法の計算は株主資本価値から始めるのではなく、事業価値を起点に始まります。

なぜ事業価値を使うのか?

それは、倍率算定の際に使用される売上高、営業利益、EBITDAなどが当該企業の事業、もっと言えば本業から創出されるものであるためです。

事業価値に非事業価値を加えた企業価値と売上高、営業利益、EBITDAとの間にはきちんとした関係があるかどうかは不確かです。本業ではない資産が一時的に大きくなっている場合などはあるかもしれないからです。

事業価値に純有利子負債を加え、非支配持ち分を差し引いた株主資本価値と売上高、営業利益、EBITDAとの間にはきちんとした関係があるかどうかはこれも微妙なところです。

負債は資金の調達に活用され、結果として事業価値につながるものなので、これを差し引いてしまっていいのか、という問題が出てきます。

よって、事業価値を売上高、営業利益、EBITDAなどの各種財務数値で割ったものを倍率として使用するのが、最も納得のある方法となるわけです。

この倍率を使用すると、評価対象企業の事業価値が求められるので、これをもとに、単純な足し引きをすることで企業価値、株主資本価値を算出します。

類似企業比準法の計算手順

類似企業比準法における計算手順を再度まとめると、以下の通りとなります。

  1. 評価対象企業と類似とみられる企業を選定する
    • 類似と判断する基準は、売り上げ構成、売上規模、資本構成、など
  2. 類似企業の事業価値を各種財務数値で割り、倍率を算出する。
    • 各種財務数値は売上高、営業利益、EBITDA、純利益、簿価純資産など
  3. 算出した倍率を対応する評価対象企業の財務数値に乗じて、評価対象企業の事業価値を算出する。算出された事業価値から株主資本価値を算出する。
    • 純有利子負債と非支配持ち分を差し引くと株主資本価値となる。
    • 非事業価値を加えると、企業価値となる。
  4. 最も信頼性の高い計算結果を代表値として取得する
    • コントロールリスクプレミアムなどの調整も実施

最後にコントロールリスクプレミアムという新しい言葉が出てきましたが、これについては具体例の中でお話しします。

類似企業比準法の例(自動車会社)

それでは、具体的にワークシートを用いながら計算手順を解説していきます。

今回、評価対象とする企業は、前回の投稿に続き三菱自動車とします。

1.評価対象企業と類似とみられる企業を選定する

まずは評価対象企業の類似上場企業を集めます。

三菱自動車が評価対象企業なので、まずは自動車の製造・販売を行っている企業の売り上げランキングなどを手掛かりに上場企業をリストアップします。

まずここで、あまりに売り上げ規模が異なる企業は除外します。類似しているとは考えられないからですね。

そうして集められた企業の中で、どの国で売れているのか、などの売上構成が三菱自動車と似ている企業、資本構成が三菱自動車と似ている企業、などに絞り込みをかけます。

最終的には、5社程度集まればサンプルとしてはOK、という感覚です。

絞り込みはサンプル数、評価対象企業の今後の方針との兼ね合い

業種・業界が同じでも、売り上げ規模、売り上げ構成、資本構成が似ている企業というのはそれほど多くありません。

そのため、生真面目に絞り込みを行うと、類似している企業が1社しかない、あるいはゼロとなってしまうケースもあります。

このような時はそもそも評価を行えなくなってしまうので、ある程度の差異には目をつぶり、類似企業として扱うことがあります。

さらに、規模、売り上げ構成、資本構成が違う企業であっても、評価対象企業に「現時点は異なるがいずれはこの規模、売り上げ構成、資本構成を目指している」という方針がある場合は、現時点で各種財務数値に差異があっても類似として扱うケースもあります。

つまりは、あまりサンプルが少なくならない程度に、また企業のの将来像と近しいと思われる企業を類似上場企業としてとり扱う、ということをします。

今回の例では、三菱自動車の類似上場企業としては以下5社を選定しました。

  • 豊田自動車
  • 本田技研工業
  • 日産自動車
  • SUZUKI
  • SUBARU

2.類似企業の事業価値を各種財務数値で割り、倍率を算出する。

以下のワークシートの画像を見てください。

まず、先ほどのステップで選定した5社に三菱自動車自信を加えた6社に対して、事業価値を算出します。

事業価値 = 時価総額 - 現金及び現金同等物 +
有利子負債 + 非支配株主持ち分

次に、事業価値を各種財務数値で割ることで、倍率を算出しています。
ここでは、EBITDAは営業利益に減価償却費を足し戻したものを使用しています。

売上高倍率 = 事業価値 / 売上高
営業利益倍率 = 事業価値 / 営業利益
EBITDA倍率 = 事業価値 / EBITDA
純利益倍率 = 事業価値 / 純利益 
  (=PER:Price Earning Ratio 一株当たり純利益あるいは株価収益率という)
簿価純資産倍率 = 事業価値 / 簿価純資産  
  (=PBR:Price Book Ratio 一株当たり純資産という)

最後に、これらの各6社の倍率の平均値と中央値を取得しています。
現場としては、中央値を用いることが多いため、中央値をハイライトしています。

こうして、三菱自動車に適用させることができると考えられる倍率が求められました。

3.算出した倍率を対応する評価対象企業の財務数値に乗じて、評価対象企業の事業価値を算出する。算出された事業価値から株主資本価値を算出する。

以下のワークシートの画像を見てください。

先ほどのステップで求めた倍率を、三菱自動車の財務数値と乗じることで、各倍率ごとに事業価値を算出しています。

そして、これらの事業価値に対して、株主資本価値を算出します。

株主資本価値 = 事業価値 + 現金及び現金同等物 - 有利子負債 - 非支配株主持ち分

4.最も信頼性の高い計算結果を代表値として取得する
コントロールリスクプレミアムなどの調整も実施

先ほどまでのステップで、株主資本価値が求められました。
しかし、倍率ごとに求めているので、いったいどれを使うべきなのか。

これは、議論の分かれる部分もありますが、一般的にEBITDA倍率の数字を使用しておけばOKです。

なぜEBITDA倍率でよいのかというと、それはEBITDAが事業から創出される利益を最も正確に表していると考えられており、その数値に基づいて算出された事業価値、そしてその事業価値を基準に算出された株主資本価値が正しいと考えることができるためです。

じゃぁなんでほかの財務数値についても倍率を出し、わざわざ株主資本価値まで算出したのか。それは、株主資本価値の範囲を測定するためです。

M&Aにおいては、この値が正確だ、というよりもこの範囲に入っている価格が取引価格だろう、という考えのもとでディールが進みます。

したがって、EBITDA倍率で算出した株主資本価値は代表値として参考にしつつも、価格はほかの倍率で求めた株主資本価値の最大値と最小値の範囲に入るだろう、と考えます。

以下のワークシートの画像を見て下さい。

M&Aの現場ではおなじみですが、フットボールチャートという株主資本価値の範囲を示した図が使用されています。

コントロールリスクプレミアムの考慮

最後に、すでに画像にも登場していますが、コントロールリスクプレミアムというものを考慮します。

コントロールリスクプレミアムとは何か。
それは、企業の支配権を取得することで得られる利益に対する上乗せ金額となります。

ここまでの例では、EBITDA倍率を用いた株主資本価値の代表値としては1.36兆円と求められましたが、このお金を払うことですぐに支配権を獲得できるのかというと、そうではありません。

買い手は、支配権を取得するという行為によりその後の経営権を握るという形で利益を得るわけですから、その対価を既存の株主に払うべきだという考えがあるからです。

既存株主の立場から考えると、自分たちはすでに合計1.36兆円の株式を持っている。

この株式を奪われるだけでなく、経営権も奪われるにもかかわらず、対価としては株式の価値だけでは納得できない、という考え方になるわけです。

ここで追加的に支払われるお金が、コントロールリスクプレミアムとなります。

じゃぁ一体どうやってそのコントロールリスクプレミアムを測定するのか。

それは、結構どんぶりなのですが、算定された株主資本価値の20%が相場とされています。

業界のお作法のようなものですので、納得感がないかもしれませんが、今回の例では20%を使用しています。

以上が、類似企業比準法を用いた具体的な株主資本価値算定の方法です。
1.6兆円支払える方は、三菱自動車を支配できます。

と、言いたいところですが、まだインカムアプローチが残っています。
実際には、インカムアプローチで求めた数値も比較することになります。

インカムアプローチは一番面倒な方法なのですが、計算手順自体は面白いので、また次回

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