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【コンサルが解説】ビジネスプロセスマネジメントとは?基本要素3つと具体的な活動、その効果 【BPM】

皆様、こんにちわ。突然ですが、ビジネスプロセスマネジメントという言葉を聞いたことはありますでしょうか。

筆者である私は、コンサルティングファームで勤務するなかで多くの企業のお客様の業務改革やシステム導入プロジェクト、あるいはM&Aを通じた事業統合のご支援をしてまいりましたが、いずれにおいてもビジネスプロセスマネジメントは重要な概念として認識されていました。

ビジネスプロセスマネジメントという言葉について、聞いたことはない、あまり馴染みがない、という方が多数派ではないかと思うのですが、言葉の通りにとらえると、ビジネスプロセスをマネジメントする、という意味であろうということは想像に難くないかと思います。

ビジネスプロセスをマネジメントする、という表現ですと横文字が並んでいますのでまだわかりにくいかと思いますが、日本語に直してみると、業務を管理する、ということに言い換えることが出来そうです。こうすると少しずつイメージがわいてくるのではないでしょうか。

業務の管理と表現すると、どの企業でも当たり前のように実施している活動のように思えますが、昨今、多くの変化が企業を取り巻く環境に発生した結果、業務は複雑化し、わかりにくくなっている状況にあります。そのため、出来ていて当然とも思える業務の管理について、課題を抱えている企業が多数存在するというのが実情です。

ビジネスプロセスマネジメントとは、まずはこうした状況を整理し、適切な業務の姿を描き、目標を設定、その目標の達成に向けて業務を継続的に変革していく試みを指します。

なお、業務の管理と表現しますと、現状の業務の姿がどういうものなのかを把握し、何か問題があれば対処する、というリアクティブなイメージを与えるかと思うのですが、ビジネスプロセスマネジメントではそれに加えて本来のあるべき姿や、より良い業務の姿を設定し、そこに到達するために日々変革を起こしていくプロアクティブな要素が加わりますので、意味合いとして両者は若干ニュアンスに違いがあります。

日本では、まだ業務の管理は行われているものの、ビジネスプロセスマネジメント、あるいはその略記であるBPM (Business Process management)というコンセプトはそこまで浸透していない状況にあります。

しかしながら、BPMの実践に関連する国際資格の登場や規模を拡大しているコミュニティの存在など、欧米では注目を集めている取り組みであり、近いうちに日本企業でも本格的に取り組みを始めるケースが見られると予想されます。

本投稿では、こうして注目を集めつつあるBPMでは具体的にどういった活動をするのか、解説してまいりたいと思います。

想定読者

  • ビジネスプロセスマネジメントに興味を持っている事業会社の方
  • 業務改革・システム導入プロジェクトに参画されるコンサルティングファーム、事業会社の方

想定されるメリット

  • BPMとは何なのか、どんなことをする取り組みなのか理解できる
  • BPMが求められる背景、取り組む意義が理解できる

ビジネスプロセスマネジメントとは

冒頭で簡単にご紹介いたしましたが、ここからは改めてビジネスプロセスマネジメントとは何なのかをご説明したいと思います。

ビジネスプロセスマネジメントとは、ビジネスプロセスのあるべき姿を設定し、現状を変革していく継続的な取り組みです。

BPMの3要素

ビジネスプロセスマネジメントで取り組む活動を整理すると、以下の3つに集約されます。

  • ビジネスプロセスの構造を理解すること
  • ビジネスプロセスの目的・目標を定義し、実績を把握すること
  • ビジネスプロセスに関するステークホルダー間のコラボレーションを促進し変革を推進すること

言い換えますと、ビジネスプロセスのつながりや関係性をきちんと理解して(構造理解)、目的・目標が達成されているかどうかを評価しながら(目的・目標の定義と実績の把握)、組織のみんなで議論・協力してより良いビジネスプロセスに変革していく(コラボレーション)という活動を継続的に進めていく活動です。

また、活動そのものをBPMとして表現することもあれば、そのための方法論などもBPMと呼ばれることもあります。

3要素すべてに取り組むことがポイント

BPMの活動は3つあるということをお伝えしましたが、これらはステップではなく、順番に取り組んでいくというものではないというところがポイントになります。つまり、これらの3つの活動はいずれも相互補完的であり、3つの活動すべてに取り組むことで有効なBPMになります。

まず、構造を理解しなくてはビジネスプロセスのどこに問題があるのかは理解が出来ません。あるいは、現時点ではそこまで大きな問題を抱えている認識はなかったとしても、もっと良いビジネスプロセスにするためにはどこをどのように変えるべきか、と考える際には当然ながら現状はどうなっているのか、という点と将来の姿はどうしようか、という点が整理されなくてはいけません。

現状に問題はないのか、という確認をする際には、何をもって現状が良いのか悪いのかを判断する基準が必要になります。それがビジネスプロセスの目的と目標です。今の姿は目的と合致しているのか、目標は達成されているのか、という点が客観的に評価できることで、現状のビジネスプロセスの評価が出来ますし、またどこをもっと良い状態に持っていけるかを考えることが出来ます。

また、とあるビジネスプロセスをより良い姿にするために具体的な施策検討をする際、特定の誰か、または部門に閉じた取り組みでは施策として実行できる範囲が限られてしまいます。例えば決算の早期化を進めるために施策を考えよう、となったとしても、経理部門だけで出来ることには限界があり、前工程の購買、販売などの業務や、システムにも手を入れなくては施策の効果は限定的となってしまいます。部門を超えてコラボレーションし、協力しながら最適なビジネスプロセスを目指すことで効果は最大化されるのです。

そもそもビジネスプロセスとは

これらの取り組みについて詳細の解説をしていく前に、そもそもビジネスプロセスとは何なのか、という点についても簡単にご紹介します。本来であればこれだけで一定程度のページを割かなくてはいけないトピックなのですが、ここでは簡単にご紹介させて頂いております点をご了承ください。

ビジネスプロセスとは業務の集合体である

ビジネスプロセスとは、業務の集合体を指します。

業務について例をあげますと、製造業における組み立て業務のように、何かしらの工程を伴い、インプットを処理することでより付加価値を伴うアウトプットを出力するような活動を指します。

組み立て業務では、組み立てされる前の部品がインプットになり、これらを組み立てるという作業を経て、組み立てが完了した製品がアウトプットとして出力されます。 このように、業務がお互いにつながった姿がビジネスプロセスです。

組み立て業務を例にとりましたが、この業務の前には部品を購入するという業務が存在します。

部品の購入業務のインプットは部品に関する要求仕様、あるいは組み立てスケジュールであり、これらを基に適切な仕様の部品を、適切な価格で適切なタイミングで購入するという処理が行われ、アウトプットは組み立てスケジュールを満たすように適切なタイミングで、かつ要求仕様に準拠して購入された部品、となります。

組み立て業務の後には梱包・出荷業務があるでしょう。

組み立て済みの製品、加えて梱包に使用する段ボールや緩衝材などの梱包材、および出荷スケジュールがインプットになり、処理として梱包作業・物流業者への引き渡しが行われ、アウトプットとしてお客様のもとにきちんと梱包された状態の組み立て済み製品が、希望通りの納期で届けられます。

ビジネスプロセスとは業務の連鎖した姿であるとも表現できるでしょう。

ビジネスプロセスには階層がある

ビジネスプロセスは細かく分解していくことが出来ます。組み立て業務でいえば、組み立て作業はラインを流れてくる部品に対する部品Aの取り付け、部品Bの取り付け、とさらに複数の細かな作業がまとまって構成されています。

このように、ビジネスプロセスはさらに細かなビジネスプロセスで構成されており、こうした細かなビジネスプロセスをサブプロセスと呼ぶことがあります。サブプロセスはさらに細かく分解したサブプロセスに分けることが出来るため、サブサブプロセスと表現することもありますが、呼称がややこしくなってくるため、ビジネスプロセス L-1、L-2、L-3・・・というように表現することも一般的です。ここで用いられているL-1、L-2、L-3のLはLayer(階層)を意味します。

従いまして、ビジネスプロセスは業務の集合体であり、またこれらの業務が階層構造をもって構成されているものである、とご理解下さい。

なお、ここではビジネスプロセスは業務の集合体という説明をしてはいるものの、ビジネスプロセスは必ずしも業務の上位概念であるという意味ではなく、ビジネスプロセスというカタカナ用語を説明するために業務という言葉を使用したまでとなります。

ビジネスプロセスも業務も、細かく分解していくと実質的に同じものに到達するため、本質的にはビジネスプロセスとは業務であり、業務とはビジネスプロセスである、という言い方もすることが出来ます。したがって、以降、ビジネスプロセスや業務という言葉がたびたび登場するかと思いますが、両者の違いはそこまでないものと考えて頂いてもかまいません。

階層はいくつ必要でどんなことを記述すればよいのか

この階層についてですが、具体的にどのくらいの数の階層をもち、どの階層にはどんなものを書くべきなのか、という点に関しては、企業ごとにルールを定めていくことが出来ます。

比較的小規模の会社であれば階層は少なくしてもかまいませんが、大規模な会社で複数の事業を持っている場合などは階層を多くして管理していくことで管理が容易になります。

とはいえ、どの階層にどんなことを書けばいいのか、という点について具体例や基本的な考え方が示されていないと、いまからビジネスプロセスを階層化してマネジメントしていこう、という活動は始めにくいかと思います。

そこで、ご参考として公益社団法人 企業情報化協会が作成している「ビジネスプロセス・モデルの階層とステップ」で示されているビジネスプロセスの階層とその目安をご紹介したいと思います。

日本では、一般社団法人 日本ビジネスプロセスマネジメント協会という団体がBPMのためのフレームワーク整理などの活動を推進していたのですが、こちらの活動は2020年6月に公益社団法人 企業情報化協会に受け継がれ、現在では同協会のBPM推進プロジェクトに移管されています。

同協会では、BPM関係のイベントの企画や、書籍の出版などが行われておりますので、BPMに興味をお持ちの方はチェックされることをお勧めします。

先ほどのご説明では、ビジネスプロセスは階層に分かれる、そして上からL-1,2,3・・・と表現されるということをお伝えしましたが、企業情報化協会の提供されている機能階層は一番上がFL0(Function Layer 0)となっていますので、数字はゼロからスタートしています。

そして、最小単位がFL8になりますので、合計で9階層を持っていることとなります。

筆者のこれまでの経験も踏まえ、一般的にどこまで階層をもって整理することが多いかというと、上から6階層を採用するケースが多いかと考えます。すなわち、事業単位または全社管理の粒度から、担当者レベルの役割単位での作業の粒度です。

筆者の経験としては、ビジネスプロセスの階層が6つとなると管理が複雑になるという観点から、ここで提示されている階層のいくつかを取りまとめ、階層を少なくした状態で管理することもあります。

自動車製造、販売、保険事業の取り扱い企業を例にとり、企業情報化協会の提供されている機能階層の上から6つにはどのようなことが記述されるのか、またその階層をさらにまとめるとどういうまとめ方になるのか、例を以下に示します。

ビジネスプロセスの階層については企業ごとにルールがあって当然ですので、あくまでご参考として受け止めて頂ければと思います。

それではここまでのお話をビジネスプロセスに関する前提知識としまして、ビジネスプロセスマネジメントで取り組む活動についてそれぞれ、解説していきたいと思います。

ビジネスプロセスの構造を理解すること

ビジネスプロセスマネジメントの要素1点目は、ビジネスプロセスの構造を理解することです。

ビジネスプロセスとは業務の集合体である、そして業務が階層構造をもって構成している、という解説をしました。ビジネスプロセスの構造を理解するというのは、自社の業務がどういったものであり、どういった階層をもって構成されていて、どんなつながりをしているのかを整理することです。

ビジネスプロセスの構造を理解するためには非常に有効なツールがあり、プロセスマップ、バリューチェーンマップ、プロセスダイアグラム、プロセスフロー、スイムレーンといったものが多く利用されています。皆さんも、こうした言葉を聞いたことはあるのではないでしょうか。

これらはツールであり、ビジネスプロセスの構造を理解するための助けになります。もし、こうしたものが存在しないのであれば、これらを作成し、ビジネスプロセスの構造を理解する取り組みを始める必要があります。

その点では、これらはツールという側面もありますが、ビジネスプロセスの構造を理解するために作成する成果物である、という表現もできるでしょう。

筆者である私がこれまでにコンサルティングファームで関与した業務改革プロジェクトでは、改革対象の業務の実態を整理するため、あるいはあるべき業務の姿を整理し関係者の全員で認識合わせをするという目的でこれらの成果物を作成しました。

なお、その時の経験に基づく私見としては、日本ではプロセスフローという表現が一般的なのではないかと思います。

システム導入プロジェクトにおいても、システムを実装して支援する対象の業務を整理するという目的で同様な活動を行い、またM&Aを通じた業務統合やIPOに向けた内部統制の構築支援でもこれらの成果物を作成しました。

ビジネスプロセスの構造を理解する必要性

なぜビジネスプロセスの構造を理解することが必要なのでしょうか。

ビジネスプロセスマネジメントとは、ビジネスプロセスのあるべき姿を設定し、現状を変革していく継続的な取り組みです。

現状を変革していくためには当然ながら現状のビジネスプロセスを正しく理解している必要があります。また、現状を変革し、あるべき姿を追い求めるのであれば、どんなビジネスプロセスが目指す姿なのかをイメージしていなくては変革のための施策を検討する、あるいは適切なステークホルダーと協力していくことが困難になってしまいます。

したがって、ビジネスプロセスマネジメントにおいては、現状およびあるべき姿のビジネスプロセスの構造を理解することが重要となります。

ビジネスプロセスの構造を理解するためのツール

ビジネスプロセスの構造理解を進めるために役に立つものとして、プロセスマップ、バリューチェーンマップ、プロセスダイアグラム、プロセスフロー、スイムレーンといったツールがあるというお話をさせて頂きました。

ビジネスプロセスは階層を持つということは既にご説明しましたが、これらのツールはビジネスプロセスの階層を表現することが出来ます。その際、階層に合わせて適切なツールを選択することが重要となります。

階層を深くしていくと、だんだんとビジネスプロセスはハイレベルな記述から、詳細な記述になっていきます。ここで、ハイレベルな記述に向いているツールと、詳細な記述に向いているツールを整理すると、以下のようになります。

ハイレベルな業務を把握するときにはプロセスマップやバリューチェーンマップと呼ばれるツールを活用することで、業務の全体像を俯瞰することが出来ます。この時点では、細かな業務のつながりなどはあまり意識されません。

階層を深くしていくと、プロセスダイアグラム、プロセスフロー、あるいはスイムレーンといったツールを活用していくことで、業務の前後関係などのつながりが理解できるようになります。こちらでは、全体を俯瞰するよりも細かなつながりのほうがより意識されます。

なお、これらのビジネスプロセスの構造理解を進めるためのツールをまとめてプロセスマップと呼ぶケースもあります。人によっては、プロセスマップL-4はすなわちプロセスフローである、といったように理解がさまざまであるケースもありますので、言葉の定義についてはきちんと認識を合わせるように注意しましょう。

それでは、これらのツールがどういった見た目をしているのか、確認していきましょう。

プロセスマップ

ビジネスプロセスの構造理解を進めるためのツールを総称してプロセスマップと呼ぶこともある、とお伝えしましたが、プロセスマップといって人々が思い浮かべるものはどんなものなのか、ご紹介したいと思います。

プロセスマップは、概念としては1980年代に注目を集めたBPR(Business Process Re-engineering)を提唱したマイケル・ハマー氏のリエンジニアリング革命という書籍に登場しており、これを作ることで自社のビジネスプロセスの構造を全体から理解し、どこを再設計していくべきかを検討することが出来るようになります。

その書籍に登場するプロセスマップは以下のようなものとなっています。

ここでは、テキサスインスツルメンツ社の数ある業務のうち、主要な6種類の業務の関係性が整理されています。このプロセスマップは主要な業務を区別し、それぞれがどのように連携しているのか、という点を整理するために活用されました。

プロセスマップでは、企業の業務のうち主要なもの、重要度の高いものを整理し、それぞれの関係性を理解することに焦点が当たるケースもあれば、業務をリストアップし、どの業務がどういったグルーピングが出来るのか、という点を整理することに焦点を当てて作成するケースもあります。 業務をリストアップし、グルーピングすることに焦点を当てたプロセスマップの例も見てみましょう。

こちらはとある製造業を例にとり、どんな業務があり、それぞれがどのようにグルーピングできるかを可視化したものとなっています。先ほどご紹介した、テキサスインスツルメンツ社のプロセスマップとはかなり違った風貌となっている点が見て取れるかと思います。

このケースでは、企業が持つ主要な業務が整理され、その中にさらにどんな業務が所属しているのか、という点が整理されています。

このように、プロセスマップといっても見た目がかなり異なるケースが存在しますが、プロセスマップにおいて重要なポイントは企業の主要な業務を洗い出して、全体感を整理するということであり、その点では今回ご紹介した2つの事例は共通しています。

なお、ビジネスプロセスは階層を持ちますので、プロセスマップも同様に階層を持ちます。

このように階層を深くしていき、最終的にはより適した記述方法としてプロセスダイアグラム/プロセスフロー、あるいはスイムレーンを定義していくという方法が一般的となります。

バリューチェーンマップ

バリューチェーンマップとは、企業のバリューチェーンを可視化したものです。

先ほどご紹介したプロセスマップでは業務を網羅することに焦点が当たっていましたが、バリューチェーンマップでは企業や事業がもたらしているバリュー(価値)に焦点を当て、そのバリューを生んでいる業務はどれなのか、という点を整理することに焦点が当たっているという違いがあります。

BPMは可能であれば企業内のすべての業務に対して実施すべきではありますが、BPMを今からやっていこうと考える企業にとって、すべての業務に対して一律的にBPMを始めるというのはなかなか難しく、また費用に効果が釣り合わないということもあります。

そうしたときは、自社にとって重要であると考えられる業務、すなわちバリューを生んでいる業務に注力してBPMを進めるという方法がとられます。こうしたアプローチでは、まずはバリューチェーンマップを作成し、その中で優先的にBPMに取り掛かるべき領域を定めることがあります。

バリューチェーンマップは以下のような形式をとることが一般的となります。バリューを生んでいる業務が主活動とされ、その他の業務は主活動を支えているという意味合いで支援活動と呼ばれます。

プロセスマップと同様に、バリューチェーンマップもビジネスプロセスを表現したものですから階層をもつことになります。

こちらも同様に、階層を深くしていき、最終的にはより適した記述方法としてプロセスダイアグラム/プロセスフロー、あるいはスイムレーンを定義していくという方法が一般的となります。

プロセスダイアグラム/プロセスフロー、スイムレーン

ビジネスプロセスの前後関係やつながりを理解するために利用されるのが、プロセスダイアグラム/プロセスフロー、そしてスイムレーンです。

まずはどんな形状なのか、イメージを見て頂きましょう。

プロセスダイアグラムとプロセスフローは同じものであると考えていただいて構いませんが、これらは比較的詳細に業務を記述し、前後関係やつながりが明確に理解できるようにすることを目的とします。

「ビジネスプロセスを可視化する」、「ビジネスプロセスを作図する」といったときに多くの人々が思い浮かべる成果物はこちらのプロセスダイアグラムとプロセスフローではないかと思います。

左から右に、あるいは上から下に流れるように業務の前後関係が理解できるように各活動を整理し、分岐がある場合はその分岐の条件も併せて記述することで、詳細に至るまでビジネスプロセスが理解できるようになります。

プロセスダイアグラムとプロセスフローに、誰がその業務を実施するのか、あるいはどの役割がその業務を実施するのか、という観点を加えたものがスイムレーンとなります。

こちらもどんなものなのか、イメージを見て頂きましょう。

スイムレーンでは、言葉の通り水泳を行うときに使用するレーンのような形式を用いて誰がその業務を実行するのか、組織や役割がわかるように記述を行います。

このとき、プールとレーンを使い分けます。プールは自社とサプライヤー、あるいはカスタマー、というように異なる団体がビジネスプロセスに関与するときにそれらの実行主体を明確に分けるために活用されます。

自社を表すプールの中には、様々な組織や役割が存在し、それらがビジネスプロセスを実行することになるのですが、この組織や役割を区別するときに使用するものがレーンとなります。

組織や役割を意識することのないような小規模なビジネスプロセスについてはプロセスダイアグラムやプロセスフローが用いられますが、業務について明確に実行主体や責任を識別したい場合はスイムレーンを活用することが一般的となります。

したがって、このスイムレーンも「ビジネスプロセスを可視化する」、「ビジネスプロセスを作図する」といったときに多くの人々が思い浮かべる成果物となるでしょう。

なお、詳細に業務を記述することがプロセスダイアグラム/プロセスフロー、あるいはスイムレーンの目的ですので、どんなルールで記述するのか、というルールが重要となってきます。イメージとしてお見せした画像の中にも、〇や◇などの図形が活用されていますが、これらが何を意味するものなのか、という点を整理しておくことは関係者間で同じ基本的認識をもってビジネスプロセスを理解する際に重要となります。

実際、プロセスダイアグラム/プロセスフロー、あるいはスイムレーンを記述するときにはこういう図解を用いて、こういったルールで図解を進めてくださいね、という取り決めを定めたものがあります。

ここではご紹介までにとどめておきますが、世間一般に広く活用されている標準規格として、OMG:Object Management Groupという団体が定めたBPMN2.0(Business Process Model and Notation 2.0)というものがありますので、簡単にドンのような図形が用いられるのかをご紹介します。

ご興味がある方はぜひご自身でどのようなルールなのか、調べてみて頂ければと思います。

複数のツールを組み合わせてビジネスプロセスの階層を表現する

ここまでで、ビジネスプロセスの構造を理解するためのツールを複数、ご紹介してきました。

ビジネスプロセスには階層があるということはすでにご紹介した通りですが、こうした階層を含めてビジネスプロセスの構造を理解するために推奨される方法は、複数の方法を組み合わせて活用することです。

仮に、プロセスダイアグラムだけでビジネスプロセスを記述していたとした場合は、詳細な業務のつながりは理解できます。しかしながら、経営者の視点でビジネスプロセスを見たとき、どこをどう改善すれば自社の業績向上に最も効率よく貢献するのか、という点についてはプロセスダイアグラムでは視点が低すぎる、あるいは視野が狭すぎることになり、適切とは言えません。

逆に、バリューチェーンマップでビジネスプロセスを記述しているときは、経営者の視点では自社のビジネスプロセスの全体像は理解できる一方で、現場の担当者レベルではどこをどう改善すべきか、というときには視点が高すぎることとなります。

したがって、役職や権限によって異なる視点や分析の粒度を矛盾なく取りまとめ、ハイレベルから詳細レベルまでのビジネスプロセスを整合させた状態で記述することが必要となり、これを実現するのがビジネスプロセスの階層表記です。

どんなツールを用いるか、どの階層にどのツールを活用するかはルール次第ですが、ここではプロセスマップとスイムレーンを組み合わせた例をご紹介します。

例えば、企業全体のレベルで作成したプロセスマップがあるとします。これはビジネスプロセスを最も粗い粒度で表現したものであり、一番上の階層に相当しますので、ビジネスプロセス L-1と表現することが出来ます。

一番上の階層をL-0と表記するケースもありますが、ここではL-1とさせて頂きました。

この企業全体のレベルで作成されたプロセスマップを分解していくと、特定の業務領域に絞ったプロセスマップが出来上がります。これがビジネスプロセスL-2と表現されることとなります。

なお、L-1のプロセスマップは企業や事業規模の大きな粒度での記述になるため非常にシンプルになることが多く、情報量があまり多くありません。そのためL-1プロセスマップの中にL-2プロセスマップも組み込み、L-1とL-2を同時に表現することも非常に多くみられる手法となっています。

今回ご紹介している図解でもL-1の記述とL-2の記述を同時に実施しています。なお、こちらはバリューチェーンマップでも同様で、L-1バリューチェーンマップの中にL-2バリューチェーンマップを組み込む記述も一般的です。

改めまして、プロセスマップではどんな業務があるのか、という点に焦点を当てており、繋がりや前後関係には焦点が当たりません。例えば、サプライチェーンのプロセスマップには以下のようなビジネスプロセスが羅列されていたとします。

  • 需給調整
  • 生産
  • 購買

需給調整をするには、需要と供給の情報が整理されている必要がありますが、需要に関する情報、つまり今後どれだけ自社の製品が売れそうか、という情報は販売のビジネスプロセスから受け取る必要があります。

供給については供給能力の過不足や、現在すでに発注していていつ原材料などを受領する予定なのか、という情報を生産や購買のビジネスプロセスから受け取る必要があります。

また、需給調整を行った後は、調整の結果として必要な生産量や、必要な購買量を生産、購買のビジネスプロセスに対して渡す必要があります。

このように、ビジネスプロセスは前後関係を持ちますが、プロセスマップ上ではこうした繋がりまでは意識されません。繋がりや前後関係を明確に記述するには、生産、購買という粗い粒度の記述では不十分だからです。

プロセスマップをさらに詳細化していき、階層を下っていった先で、ビジネスプロセスの繋がりや前後関係まで含めて記述するものとして、スイムレーンを選択したとしましょう。このケースでは、このスイムレーンがビジネスプロセスL-3となります。

スイムレーンでは、業務と業務の繋がりが矢印で接続され、明確につながりや前後関係が整理されます。

必要があれば、スイムレーンもさらに分解し、別のより詳細なスイムレーンにしていくことになり、このようにしてビジネスプロセスL-4、5…と作成を行うこととなります。

以上で、ビジネスプロセスマネジメントの要素1点目として、ビジネスプロセスの構造を理解することの必要性と、その際に活用されるツールについてご紹介してまいりました。

それでは次の要素について、解説を続けていきたいと思います。

ビジネスプロセスの目的・目標を定義し、実績を把握すること

ビジネスプロセスマネジメントの第一の要素として、ビジネスプロセスの構造を理解することが重要ということをお伝えしましたが、構造を理解したうえでどのようにより良いビジネスプロセスにしていくか、という点を考える際に有効となるのがビジネスプロセスの目的・目標の定義と実績の把握です。

ここからは、ビジネスプロセスマネジメントの第二の要素として、ビジネスプロセスの目的・目標の定義と実績の把握について、解説していきます。

ビジネスプロセスの目的・目標の定義と実績の把握をする理由

今一度、ビジネスプロセスマネジメントとは何だったかを振り返ってみましょう。ビジネスプロセスマネジメントとは、ビジネスプロセスのあるべき姿を設定し、現状を変革していく継続的な取り組みでした。

継続的に変革をしていくためには当然ながらビジネスプロセスの現状がどのようになっているのかを理解する必要がある、あるいはあるべきビジネスプロセスの姿を定義する必要がある、ということで第一の要素であるビジネスプロセスの構造理解について触れてきましたが、ビジネスプロセスの変革を行うにあたって、目指すところはどこなのか、という点が明確化されている必要があります。

そこで活用されるものが目的と目標であり、この目的と目標が達成されているかどうかを確認するために実績を把握するのです。

ビジネスプロセスの目的・目標と実績が把握されていることの効果は3つあります。

  • 現状のビジネスプロセスと目的・目標の整合性を検証できる
  • 達成状況から問題点が浮き彫りになる
  • 新たに課題が設定できる

現状のビジネスプロセスと目的・目標の整合性を検証できる

ビジネスプロセスの目的とは、ビジネスプロセスが果たすべきミッションと言い換えることが出来ます。ビジネスプロセスの目標とは、その目的を細分化し、達成されているのかどうかを測定しやすい形にしたものです。

例えば、スマートフォンなどを消費者であるお客様に対して出荷するビジネスプロセスの目的は「お客様に確実に製品を届け、幸せになって頂くこと」と記述することが出来るでしょう。その際、目標となるものはさらに以下のように細分化されます。

  • 3か月後までに受注から出荷完了までの平均リードタイムを1日以内にする
  • 3か月後までにお客様のもとでの初期不良の発覚件数を1か月平均0.1%以下に抑える
  • 3か月後までにお客様への出荷誤り(注文と異なる納品)を1か月あたり0.1%以下に抑える

目標を記述する際には、SMARTというフレームワークが使用されます。SMARTは、それぞれSpecific(具体的な)、Measurable(測定可能な)、Achievable(達成可能な)、Related(経営目標と関連した)、Time-bonded(時間制約がある)の頭文字をとったものとなっています。

このフレームワークを活用することで目標の記述が明確になり、実績の把握をしたうえで判定、評価がしやすくなります。

目的と目標が明確になると、現状のビジネスプロセスは目的と目標と合致しているかを検証することが出来ます。

例えば、スマートフォンなどを消費者であるお客様に対して出荷するビジネスプロセス全般を担当している部門が物流部門だったとしましょう。

この部門に所属する従業員の方々は、ここで定義されたビジネスプロセスの目的と目標をきちんと把握したうえで日々の業務に取り組むことが出来ているのかを確認してみたところ、「自分たちは製品そのものの製造や開発には関与していないので、品質の検査については責任を負うことはできない、したがってこのビジネスプロセスの目的には異論はないが、目標については完全には合意できない」という返答が得られました。

確かに物流部門の主張は正しいとみることも出来そうです。状況としては、製品の品質検査をしっかり行うこと、という趣旨の目標が設定されているものの、その作業の実行主体となっている物流部門は製品の品質検査については適切に行えないという主張をしているということになります。

こうした状況ですと、ビジネスプロセスの目標は適切に管理されず、当然ながら達成されません。

このように、組織の責任範囲やミッションなどの設計と、ビジネスプロセスの目的や目標などの設計が不整合を起こしている、あるいは関係者間できちんと合意されていない状況が放置されていますと、結果として非効率や無駄、不利益をもたらすことになります。

今回のケースでは、品質の検査がきちんとされずに出荷された製品を受け取ったお客様が不利益を被る可能性が高まりますし、そうした状況が続くと結果的に企業の評判は低下し、収益にも影響します。

こうしたリスクを早期に発見し、対処するために現状のビジネスプロセスと目的・目標の整合性を検証することは重要であり、ここにビジネスプロセスに対しては目的と目標を定義することの意味があります。

なお、このケースでは物流部門の主張が正しいと判断して初期不良の検査は物流部門による出荷のプロセスの前に、製造のプロセスで別の担当部門が実施することにするという方法もあるでしょうし、あるいは物流部門はやはり初期不良を見つける最後の砦として責任をもって検査業務を担当してもらう、その代わりに検査項目は製品に詳しい部門が決めることにする、という対応方法があるでしょう。

達成状況から問題点が浮き彫りになる

ビジネスプロセスの目的・目標を設定し、実績を確認すると、その達成状況を客観的に判定することが出来るようになります。そうすると、何が問題点なのか、課題が浮き彫りになる効果が得られます。これがビジネスプロセスに目的・目標を設定する2つ目の意味となります。

例えば、製品の出荷プロセスにおいて、目標として設定している受注から出荷までの平均のリードタイムを1日以内に出来ていないとします。これは明らかに問題ですので、平均のリードタイムを短く出来ていない要因を分析する必要があるとすぐにわかります。

継続的にこうした目標の達成状況を見ていれば、今までは平均のリードタイムが1日以内だったにもかかわらず、ある日から1.5日~2.0日になってしまった、というように何か問題が起こっているということに簡単に気づくことが出来ます。

問題点について理解した後は、あらかじめ整理しておいたビジネスプロセスの構造を確認することで、どこに問題があるのかを分析することとなります。もし、ビジネスプロセスの構造が十分に理解されてないのであれば、このタイミングで構造を整理し、問題点の原因について考察をしていくこととなります。

このように、目的と目標が設定されていると、実績状況を見て比較することで、問題点が明確になり、またその分析作業といった問題の解消に向けたアクションもとりやすくなります。

ビジネスプロセスに設定した目標が達成されていないとき、その原因がどこにあるのかを分析する際には数多くあるビジネスプロセスのパターンの中で問題が発生しているのはどのパターンなのかを切り分けることが重要となります。

特定のパターンだけではなく全般的に問題が散見されるケースもあるでしょうが、多くの場合は特定のパターンに限った問題が全体の目標達成状況を悪化させており、こうしたケースを見つけることが出来ると問題の解消が容易になります。

例として、スマートフォンの出荷リードタイムが目標を達成できていない状況を扱ってみます。

平均的な受注から出荷までのリードタイムを1日以内にするという、大枠の目標を設定していたとして、こ知らの目標が守られていない状況を想定し、この原因はどこにあるのかを考えます。ビジネスプロセスの構造に立ち戻り、どのパターンで問題が発生しているのかを検討してみましょう。

その際、検討するパターンとして考えられるものは以下のようなものとなります。

  • どの製品・製品群に対するリードタイムが長いのか
  • どの部署の受注に対するリードタイムが長いのか
  • どの顧客・顧客層に対するリードタイムが長いのか

この他にも検討する際の切り口は様々にあるかと思われますが、先ほども記載したように、こうした問題点の理解と、その詳細分析のためのアクションがとりやすくなることが事前にビジネスプロセスに対して目的・目標を設定する効果となります。

検討の結果、高齢者層を対象とするスマートフォンの受注から出荷までのリードタイムが長くなっていることがわかったとします。

近年、高齢者を対象とするスマートフォンの需要は増えてきており、製品ラインナップも拡充を続けていますが、高齢者向けとして開発されたスマートフォンではないスマートフォンを高齢者向けに文字の表示を大きくする、アプリケーションを事前にインストールした状態にカスタマイズして出荷するというサービスを当社は始めたばかりでした。

その結果、従来は受注後、製品について初期不良の有無を検査して出荷していたビジネスプロセスに、高齢者向けの場合は製品に対する初期セットアップを行うというプロセスが追加されていたのです。これによって、全パターンを含む平均リードタイムが悪化していたことがわかりました。

それでも平均リードタイムを1日以下になるように努力をするのか、あるいは高齢者向けのカスタマイズが発生するパターンにおいては平均リードタイムを2日まで許容するものとして設定しなおす、という点については意見が分かれる部分かと思いますが、ビジネスプロセスに対して目的・目標を設定していると、このように定期的に点検する必要性が生まれます。

定期的に点検をすると、ビジネスプロセスの構造も同様に点検が必要になり、改善すべき箇所の特定や、設定している目的・目標が適切かどうかを検証することもできます。これが、ビジネスプロセスに対して目的・目標を定義する意味となります。

新たに課題が設定できる

ビジネスプロセスに目的・目標を設定する意義の3点目として、新たに課題を設定できるという効果があります。初めに、問題と課題の違いからお話をしていきたいと思います。

ビジネスプロセスに目的・目標を設定する意味の2点目として、問題点が浮き彫りになるというお話をしました。問題というのは、既に発生している事象であり、何らかの悪影響を及ぼしている、本来はもっと良いパフォーマンスを発揮できるのにそれを阻害しているものと表現することが出来ます。

目的・目標が設定されていると、それを達成できているかどうか、という判断で簡単に問題が見つけられます。しかしながら、既に発生している問題を見つけ、それを解消するというアプローチだけでいると、いずれ「もう問題はない、すべての目的・目標が達成されている、改善すべきポイントも何もない」という慢心につながってしまいます。

基本的にビジネスプロセスが完成し、これ以上改善は出来ないという状況になることはありません。したがって、設定した目的・目標が達成されていたとしても、ビジネスプロセスのそもそもの目的に立ち返り、継続的に点検をすることが重要となります。

この時に立ち返るべきは、ビジネスプロセスに設定した目的です。

ビジネスプロセスの目標は、目的を遂行するために客観的に評価できる基準であり、そもそも現実的に達成可能なものを目標として設定することが目標設定に関するフレームワークであるSMARTのA(Achievable)に含まれている通り、目標の達成はある程度可能となります。

しかしながら、目標が達成されたとしても、そもそもの目的に立ち返ると、「もっと良いビジネスプロセスを目指すことはできないか」と考えることが出来るようになります。

こうして、次に自分たちが目指すべき姿、クリアすべき項目として設定したものが、課題と表現されます。問題と課題は、似たものとして扱われることもありますが、ここでは性質から異なるものとして取り扱っている点に注意してください。

例として、スマートフォンなどを消費者であるお客様に対して出荷するビジネスプロセスを扱います。このビジネスプロセスの目的は「お客様に確実に製品を届け、幸せになって頂くこと」と記述していたとします。

この目的をブレークダウンしたものとして、目標は以下のように設定されており、こちらについてはいずれも達成済みだったとします。

  • 3か月後までに受注から出荷完了までの平均リードタイムを1日以内にする
  • 3か月後までにお客様のもとでの初期不良の発覚件数を1か月平均0.1%以下に抑える
  • 3か月後までにお客様への出荷誤り(注文と異なる納品)を1か月あたり0.1%以下に抑える

現状、このビジネスプロセスの目標は受注から出荷までの工程に着目し、自社内で管理できる領域に閉じていることがわかりますが、そもそもの目的は「お客様に確実に製品を届ける」ところまでを含めています。

そこで、現状のビジネスプロセスの管理対象を出荷完了までで終えるのではなく、その先のお客様への配送完了まで含めて最適化することを自分たちが次に目指す姿として設定し、新たに目標も設定しなおし、より良いビジネスプロセスの構築を進めることが出来るようになります。

当然ながら、配送作業を担当するパートナー企業とはどのように連携するべきなのか、配送完了までのリードタイムを仮に目標設定したとしてどうやって実績をとれば評価できるのか、といった検討すべき項目がたくさん出てきます。これが課題です。

なかなかに難しい課題になりますが、仮にこうした課題をクリアし、最終的にお客様のもとまで製品を届ける工程までを含めて最適化することが出来たなら、競合他社との大きな差別化が期待出来ます。

この例では非常にチャレンジングな取り組みを扱いましたので、もちろんその課題に取り組む前に取り組む意義があるのかどうかをビジネス的に意思決定する必要がありますが、ビジネスプロセスに対して目的・目標を設定し、継続的に評価することでこのように新たに今から自分たちが取り組むべき課題を見つけ出すということも出来るようになるのです。

以上で、ビジネスプロセスマネジメントの要素2点目として、ビジネスプロセスの目的・目標を定義し、実績を把握する意味と効果についてご紹介してまいりました。

それでは次の要素について、解説を続けていきたいと思います。

ビジネスプロセスに関するステークホルダー間のコラボレーションを促進し変革を推進すること

ビジネスプロセスマネジメントの第一の要素はビジネスプロセスの構造を理解することであり、第二の要素はビジネスプロセスの目的・目標の定義と実績の把握でした。

これらの要素と同時に取り組むべき第三の要素が、ビジネスプロセスに関するステークホルダー間のコラボレーションを促進し変革を推進することです。要するに、「みんなで取り組んでいきましょう」ということになります。

ビジネスプロセスの実行には、様々な組織や役割の人々が関与します。場合によっては、自社の従業員だけではなく、委託をしているパートナー企業や、お客様も含めてビジネスプロセスを取り扱うことが必要な場面もあります。

ステークホルダー間のコラボレーションというのは、このようにビジネスプロセスに関与する様々な人々の間で、ビジネスプロセスの構造や目的・目標について共通の理解を持ちつつ、お互いにとってより良い姿を目指すということを意味します。

コラボレーションが必要な理由

なぜコラボレーションが必要なのでしょうか。

改めて、ここでもビジネスプロセスマネジメントとは何だったかを振り返ってみましょう。ビジネスプロセスマネジメントとは、ビジネスプロセスのあるべき姿を設定し、現状を変革していく継続的な取り組みでした。

ビジネスプロセスの実行には、多くの組織の人々が関与します。部門、課、あるいは自社内にとどまらず、パートナー企業などの外部にも及んで実行されているビジネスプロセスも存在します。

そうしたビジネスプロセスを変革していくときには、当然ながら関与する人々のみんなが変革の必要性や意味、効果について納得し、お互いにとってWin-Winとなるようにしていく必要があります。

ここまでに触れてきたビジネスプロセスの構造、目標と目的についても同様に関与する人々の間で同じ認識を持つことで、建設的な議論が可能になりますし、実行可能かつ具体的な施策が検討することが出来るようになります。

コラボレーションを進めることの主な効果は以下の2点です。それぞれ、解説していきたいと思います。

  • 部分最適を回避し、全体最適なビジネスプロセスを構築することが出来る

組織・役割を横断することで変革の規模を大きくすることが出来る

コラボレーションをする意味の一つとして、変革の規模を大きくすることが出来ることがあります。

特定の領域に閉じた取り組みには限界があります。人には自分の力だけでは出来ることに限界があるように、特定のチームや課、組織が自分たちだけで出来ることには限界があります。

例えば、品質の高い、良い製品を作りたいという思いを持っている生産部門の人々がいるとします。生産部門のミッションとして定義された業務は、調達部門が決定したサプライヤーから購買された部品を加工し、組み立て、製品に仕立てることです。

良い製品を作るために生産部門だけで出来ることももちろんありますが、調達部門が原材料の価格を低減することに注力しすぎた結果、粗悪な部品が購買されているようでは、組み立てられる製品の品質も上がりません。

このように、ビジネスプロセスは部門などの組織や、役割を超えて連鎖しているものであるため、ビジネスプロセスをより良い姿にしていくためには必然的に組織や役割を超えたコラボレーションが必要となります。

逆に、こうした組織や役割の間にこそ、改善すべき余地があるとも言えます。

この例では、購買部門と生産部門が協力して、より品質の高い製品をつくるためにはどうすべきか、という点を協力して検討することで様々なアイデアが出されることが期待できますし、さらに設計開発やサプライヤーも含めて協力体制を構築することで大きな取り組みに発展させ、効果も最大化できる可能性が高まります。

もちろん、関与する人々が増えるほどに取り組みの難易度は高まりますが、一度構築された組織や役割を超えた強力な連携は競合他社にとって模倣困難な競争優位性として確立されるため、コストと効果のトレードオフを考慮したうえで検討すべき価値が十分にあるでしょう。

部分最適を回避し、全体最適なビジネスプロセスを構築することが出来る

コラボレーションを行うことで、組織や役割を超えて、お互いが一体何をしているのかが理解できるようになります。こうすることによって、部分最適なビジネスプロセスを特定し、全体最適に向けて取り組みを進めることが出来るようになります。

例えば、事業を複数持つ企業があるとしましょう。事業A,B,Cにそれぞれにサプライチェーン、販売、経理という部門があります。こうした事業部ごとにビジネスプロセスが可視化され、お互いが何をしているのかがわかるようになると、同じ機能同士を比較するということが出来ます。

事業A、B、Cの販売部門が案件管理の方法を見比べてみると、お互いにまったく別の方法をとっており、精度も全く異なることがわかりました。

事業Aでは販売担当が作成した四半期ごとの売り上げ目標の達成率は平均的に90%~110%で安定している一方で、事業B、Cでは販売担当ごとのばらつきが大きく、目標達成率が20%となるときもあれば300%になるときもあるというように不安定です。

もちろん、経営者の視点では安定して目標が達成される方法が好ましいということになります。このケースでは事業Aがとっている案件管理の方法を、期初の計画策定や、期中の個別案件のステージ管理も含めて事業B、Cに共有し、企業全体として統制を図ることとし、結果として、事業B、Cにおいても

四半期ごとの売り上げ目標の達成率が平均的に90%~110%と安定する効果が得られました。

このように、組織や役割を超えたコラボレーションをすることで、部分最適な状況を脱し、全体最適を促進することが出来るようになります。

コラボレーションを進める第一歩は情報の一元管理

ここまでで、コラボレーションの重要性についてお話してきましたが、コラボレーションを進めるにはどうすればよいのか、その第一歩をご紹介します。

コラボレーションの第一歩は、情報の一元管理です。ビジネスプロセスの構造、目的や目標に関する記述と、その実績などの情報を組織や役割を超えて広く閲覧可能な状況にするため、一元管理します。

ビジネスプロセスに関する情報を全く整理していないという企業は存在しないかと思いますが、それらが一元管理できているかというと、Yesと答える企業は非常に少なくなってしまいます。

例えば、内部統制のためにJ-SOXに準拠したプロセスフローを作成する、何かしらのシステム導入のためにプロセスフローを作成する、という活動を行ったことがある企業は多いかと思いますが、それが一元管理されて、誰でも簡単にみることが出来る状況になっていない、というケースは非常に多く散見されます。

Excel、あるいはPower PointなどのOffice製品で作成されたプロセスフローはあるものの、社内で利用している共有フォルダーのどこか奥深くに格納されており、過去数年にわたって更新されていない、そのためそもそも存在についても認知されていない、または誰かが更新したはずなのだがそれはどのバージョンだったか今となってはわからない、こういったことも「あるある」のお話です。

こうした状況ですと、自然と自分たちが日々取り組んでいる業務以外のことは全く知らない、という状況に陥るだけではなく、自分たちが日々取り組む業務以外の業務なんて知る必要もない、知りたくもない、というマインドセットが醸成されてしまいます。

こうした状況を打破するための第一歩が、情報はすべてここにある、という状況を作り出すことであり、すなわち一元管理が大きな意味を持ちます。

情報がある場所に一元管理されていれば、今のビジネスプロセスの構造がどうなっているのかを確認する、あるいは改善の余地がないかを検討するときにいちいち探す手間が省けます。

目的や目標、そして実績も一元化されていれば、自分たちの業務はどういう状況なのか、簡単に理解することも出来ます。

さらに、自分たちの業務と関連の深い前工程や後工程のビジネスプロセスがどうなっているのか、という点も一元化された情報の中から簡単に見つけることが出来るようになります。

マネジメントのコミットメントは必須

もちろん、一元管理をするだけですべてがうまく回り始めるというものではありません。コラボレーションを促進するためには、コラボレーションが推奨される必要があります。それも、経営層や部門長などのマネジメント層が積極的にここまでに説明してきたコラボレーションの必要性を説明し、推奨することが必要となります。

とある大学教授のお話をしましょう。この教授は国家の繫栄と政治、および教育の関係を研究していたそうです。

ある日、この大学教授に問い合わせが入りました。問い合わせは政治家によるもので、次期政策の一つとして教育関係の検討を進めたいということでその相談に乗ってほしいというものだったそうです。問い合わせを受けた教授はこのようにお答えしました。

「教育には時間がかかります。おそらく、あなたの任期中には結果は出ませんが、それでも教育に取り組む覚悟はおありですか」

それ以降、大学教授は何の連絡も受けることはなかったそうです。

ビジネスプロセスマネジメントのうち、コラボレーションの推進という要素ではビジネスプロセスに関与する多くの人々のマインドセットや、組織の文化まで含めて変えていく必要があり、これはある種教育と非常に近いものではないかと考えます。

したがって、継続的に、しつこく、粘り強く、取り組みの必要性をマネジメント層から発信し、仕組みを整え、人々の心構えや働き方が変わるまで取り組むことが求められます。

ビジネスプロセスマネジメントに取り組み始めてから効果が出るまではどのくらい時間がかかるのか、という点については、第一の要素である構造化、第二の要素である目的・目標設定と実績の把握については1~2年程度で実現できることもあります。

しかしながら、本当の意味で効果を出すためには第三の要素であるコラボレーションが不可欠であり、これには数年単位で時間を必要とするケースも少なくありません。

取り組みを始めるだけであれば勢いでなんとかなるかもしれませんが、それを数年間継続するにはマネジメント層のコミットメントが必要不可欠となります。

実際、私もビジネスプロセスマネジメントに関する勉強会を企画し、多くの企業の経営層の方々から質問を受け取ることもありますが、「これから取り組みを始めるとしたときに一番大事なポイントは何ですか」と質問をされたときには、「経営層のコミットメントです」とお答えするようにしています。

昨今、ビジネスプロセスマネジメントの注目度が高まっているように感じており、これ自体は喜ばしいことなのですが、これから取り組みを始めるというときには、軽い気持ちで始め、すぐに効果を刈り取ろうとするのではなく、ビジネスプロセスマネジメントの重要性や意義はもちろん、長期にわたるコミットメントの必要性もご理解頂いたうえで活動を進めて頂ければと思います。

終わりに

いかがでしたでしょうか。ビジネスプロセスマネジメントではどんなことをするのか、具体例を交えて解説させて頂きました。

また、ビジネスプロセスマネジメントに関する事例や、必要性、取り組みのアプローチに関して継続的に投稿をしていきたいと思いますので、ご覧頂けますと幸いです。

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