皆さん、こんにちわ。SAP、触ってますか?
こちらの投稿では、SAPのモジュールの一つである、Materials Management/MMの概要解説を行っています。詳しい機能やカスタマイズなどの情報のまえに、そもそもどういうことをするためのモジュールなのか、主にどのような機能があるのか、また他のモジュールとはどうかかわるのか、という点にご興味がある方はぜひご覧になって頂ければと思います。
Agenda
想定読者
- SAP S/4HANA導入に関われているSAP所学者の方
- SAP S/4HANA導入に関わられている調達、在庫管理等の資材管理業務を担当する方
想定するメリット
- SAPの提供するMaterials Management/MMの概要がわかる
- Materials Management/MMでサポートされる主な業務シナリオがわかる
Materials Management/MMモジュールとは
SAP S/4HANAのMaterials Management(以下、MMモジュールと呼びます)は、SAPの提供する基幹業務を支援するモジュールの一つであり、企業が物資やサービスを調達・管理する際に活用する機能として多くの企業で採用されています。
購買、在庫管理、請求書の検証など、物資、資材の調達や管理に関連するさまざまな業務を統合的にサポートし、製造業であれば、製品を生産するための原材料の調達や、製品が完成した後の在庫の管理といった業務がこのモジュールでカバーされます。
SAPの持つモジュール構造:LogisticsとNon-Logistics
SAPにはMMモジュール以外にも多くのモジュールが存在しますが、大きなカテゴリーで分けると、「Logistics」領域と「Non-logistics」領域に分けられます。
MMモジュールは「Logistics」領域に属するモジュールなのですが、この他にもどのようなモジュールがあるのか、簡単にみてみましょう。
Logistics領域
Logistics領域は、物流やサプライチェーンに関連する業務を中心にサポートするモジュール群です。以下のようなモジュールが含まれます。
- SD(Sales and Distribution):販売、出荷、請求などの業務をサポートする
- PP(Production Planning):生産計画や生産管理に関する業務をサポートする
- WM(Warehouse Management):倉庫管理、在庫の移動や配置に関する業務をサポートする
Non-Logistics領域
Non-Logistics領域は、先ほどご紹介したLogistics領域以外の業務をサポートするもので、イメージとしてはバックオフィス業務が中心となります。以下のようなモジュールが含まれます。
- FI (Financial Accounting):会計業務全般、特に財務諸表の作成や財務情報の報告に関する業務をサポートする
- CO (Controlling):内部のコストや業績を管理・分析するための業務をサポートする
- HR (Human Resources):人事や給与計算など、人的リソースに関する業務をサポートする
なお、これらのSAPは機能拡張を続けており、これらの枠に収まらないモジュールも多数登場しています。こちらは、あくまでサンプルとしてご紹介しているという点はご理解下さい。
MMモジュールの機能概要
MMモジュールでは、どのような機能が提供されているのかをご紹介します。主には以下のような機能があるのですが、それぞれについて、以降のセクションでどのようなデータを作成し、どのような業務を支援するのかを解説させて頂きます。
- 購買 (Purchasing)
- 企業が製品を生産するために必要な原材料や部品の調達を行う。取引先(ベンダー)との取引条件や価格、納期などの情報を管理し、発注書の作成を行う
- 在庫管理 (Inventory Management)
- 倉庫での在庫の受け入れ、保管、移動、使用/消費を行う。在庫の正確な数量や位置をリアルタイムで把握し、必要に応じて製造部門への部材の供給や出荷業務を行う
- 資材所要量計画 (MRP: Material Requirement Planning)
- 生産計画に基づき、生産に必要な材料や部品の所要量を計算し、適切なタイミングでの調達を計画する
- 請求書照合 (Invoice Verification)
- 正確に支払いを行うため、取引先から受け取った請求書と納品された商品やサービスを照合する
購買 (Purchasing)
購買は、企業が必要な商品やサービスを供給業者(サプライヤー、または仕入先と呼ぶ)から取得するプロセスを指します。
作成・管理されるデータ
MMモジュールがサポートする購買プロセスでは、主に以下のようなドキュメントやデータが作成・管理されます。
- 購買依頼/購買要求 (Purchase Requisition)
- 特定の商品やサービスのニーズを正式に文書化するための内部ドキュメント(これを買いたいです、という内部向けの情報)
- 購買発注/発注書/注文書 (Purchase Order)
- 供給業者に商品やサービスの購入を要求する公式な文書(これを発注します、という外部向けの公式な依頼)
- 契約 (Contract, Agreement)
- 長期間にわたる取引条件を定義する合意文書(この期間、この金額で買わせてもらいます、という正式な契約書、合意の証)
- スケジュール契約 (Scheduling Agreement)
- 一定期間内の定期的な供給に関する契約 (この期間、定期的に10個納品してもらいます、という正式な契約書)
サポートされる業務シナリオ概要
MMモジュールがサポートする購買プロセスでは、主に以下のような業務シナリオがカバーされます。
- 供給業者の選定 (サプライヤーの選定)
- 企業の要件に最も適した供給業者を見つける。見積依頼を複数社に出し、比較を行う
- 交渉、契約締結
- 価格や納期などの条件に関する交渉を行う。交渉の結果をデータとして登録する
- 発注
- 供給業者に商品やサービスの供給を正式に依頼する
- 受領、検品、検収
- 供給業者からの商品やサービスの受け入れと検品、検収を行う
- 請求書照合
- 商品やサービスの受領後、供給業者への支払いを行う前の請求書の確認を行う
在庫管理 (Inventory Management)
在庫管理は、企業の資産である在庫の数量や価値を記録、追跡、管理するプロセスを指します。
作成・管理されるデータ
MMモジュールがサポートする在庫管理プロセスでは、主に以下のようなドキュメントやデータが作成・管理されます。
- 在庫伝票 (Material Document)
- 物的在庫の動きをドキュメント化するもの (入庫した、出庫した、という記録)
- 在庫状況 (Stock/Inventory Balance)
- ある時点での特定の物品の在庫数量や場所の情報(いま、この品目の在庫がこれだけあります、という情報)
- 在庫評価 (Inventory Valuation)
- 在庫の財務的価値を評価するためのデータ (在庫の合計金額がいま、いくらです、という情報)
- 棚卸伝票 (Pysical Inventory Document)
- 実地で在庫の数をカウントした結果を入力した伝票 (データ上は100個でしたが、数えてみたら98個でした、という情報)
サポートされる業務シナリオ概要
MMモジュールがサポートする在庫管理プロセスでは、主に以下のような業務シナリオがカバーされます。
- 在庫の追跡
- 物的資産の動きや位置をリアルタイムで追跡する。今自社のどの拠点にあるのか、という情報と、このシリアル品はどのお客様に対して出荷したのか、という情報を追跡する
- 在庫の評価
- 在庫の数量と価値を定期的に評価し、財務報告のためのデータを提供する
- 廃棄および返品
- 不要または不良在庫の廃棄や供給業者への返品を行う
- 実地棚卸
- 物理的に存在する在庫の件数をカウントし、データ上の件数との差異を確認し、差異があれば記録し、会計処理を行う
資材所要量計画 (MRP: Material Requirement Planning)
MRPとは、生産計画に基づいて、製品の生産に必要な部品や原材料の所要量を計算し、それをもとに購買計画や生産計画を最適化するプロセスです。
少々難しく聞こえるかもしれませんので、例を用いて表現します。
とある製品を100個生産したいという計画があったときに、その製品の生産に必要な部品や、原材料がいくら必要になるだろうか、という計画を行います。同時に、生産にはどのくらいの時間がかかるだろうか、という点も考えたうえで、いつ、何個の部品や原材料が、今すでに在庫として持っているものに加えて必要になるだろうか、と考えて、最終的には何個を買う必要がある、あるいは在庫転送する必要がある、そして生産する必要がある、という内容の計画に仕上げるというものがこのMRPで実行する業務です。
作成・管理するデータ
MMモジュールのMRPでは、以下のようなドキュメントやデータが作成・管理されます。
- 所要量計画 (Requirement Plan)
- 製品の生産スケジュールに基づいて計算される部品や原材料の所要量、必要な数(Requirement)
- 購買依頼/要求 (Purchase Requisition)
- 所要量計画に基づいて生成される、特定の部品や原材料を購入する依頼
- 製造指図(せいぞうさしず)/生産オーダー (Production Order)
- 計画された生産活動を実行するための指示
サポートされる業務概要
MMモジュールのMRPでは、以下のような業務プロセスがサポートされます。
- 所要量計算
- 製品の生産計画に基づいて、部品や原材料の所要量を計算する
- 購買計画の最適化
- 部品や原材料の購入を最適なタイミングで行うための計画を作成する
- 在庫の最適化
- MRPの結果に基づいて、在庫レベルを最適化する
- 生産計画の調整
- MRPの結果をもとに、生産計画を調整する
請求書照合 (Invoice Verification)
請求書照合は、サプライヤーから受け取った請求書と、システム内の注文や受領データとの間で、価格や数量、その他の条項を照合するプロセスを指します。これを行うことで、企業は安心して正確な金額で供給業者向けに支払いを行うことが出来ます。
作成・管理されるデータ
MMモジュールの請求書照合プロセスでは、以下のようなドキュメントやデータが作成・管理されます。
- 請求書ドキュメント
- 供給業者/サプライヤーから受け取った請求書の情報
- 注文データ
- 既にシステムに登録されている購買注文の情報 (請求書との比較、検証の対象になる)
- 受領データ
- 物品の受領やサービスの実施に関する情報 (請求書との比較、検証の対象になる)
サポートされる業務シナリオ
MMモジュールの請求書照合では、以下のような業務プロセスがカバーされます。
- 請求書の検証
- 供給業者/サプライヤーからの請求書内容と、注文や受領データを照合し、不一致や誤りがないか確認する
- 価格や数量の違いの確認
- 請求された価格や数量が注文や受領データと一致するかどうかを確認する
- 不一致の解消
- 請求書の内容に不一致や誤りがある場合、それを修正または調整する
MMモジュールと他のモジュールとの関りあい
SAPのモジュールは、その多くが相互に連携しています。ERPとはEnterprise Resource Planningの略である通り、企業の資産の情報が統合され管理されているシステムですので、MMモジュールの持つ情報も他のモジュールと連携し、情報の一貫性や業務の効率化がなされています。
ここでは、MMモジュールが他のモジュールとはどのように関わっているのかをご紹介します。
財務会計 (FI)
MMモジュールとFIモジュールとの間では、購買発注、受領、請求書処理などのトランザクション情報が共有されます。これにより、MMモジュールで実行されたトランザクション、例えば発注や、受領、棚卸在庫の件数確認等から会計処理が自動的にトリガーされ、手動で会計伝票を作成するといった工数が最小限になります。
コントローリング (CO)
管理会計の目的で、企業は組織内で発生したコストや原価などの情報をきちんと取りまとめておく必要があります。MMモジュールから発生したコストや原価に関する情報がここで利用されます。
例えば、特定のコストセンター (コストの負担先となる組織情報)に関連する材料の購入情報、コストの発生状況を管理することが出来ます。
販売と配送 (SD)
販売を行うために必要な在庫情報や商品の調達状況などが、MMモジュールから供給されます。これにより、納期の確認や注文のフルフィルメントが効率的に行われます。
例えば、現時点では在庫はゼロだが、数日後に納品の予定があるのでそのあとの日程であれば出荷が出来る、といった連携が可能となります。
生産計画 (PP)
MMモジュールは、生産計画や生産業務のための資材情報をPPモジュールに提供します。既に作成済みの発注伝票などがあれば、いつ部品や原材料が届く、ということがわかるので、こうした予定の情報を基に生産の計画が作成できるようになります。
終わりに
いかがでしたでしょうか。MMモジュールの概要はつかめましたでしょうか。
今後も、MMモジュールの機能紹介や、関連するSAPの解説を行っていきたいと思いますので、ぜひお付き合いいただけますと幸いです。