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ビジネスプロセスマネジメントの推進に必要な組織の作り方

よくある質問:BPMはどう進めればいいのか?

私は業務改革をテーマに企業に対するアドバイザリーをする立場にいるのですが、業務改革を一過性のプロジェクトとして進めるのではなく、変化の時代を生き残っていくためには常態化した形式で進めることが重要である、という説明を行います。

その中でキーワードとなるのが、ビジネスプロセスマネジメント(BPM)やプロセスエクセレンスという言葉です。この言葉も、日本企業の中にもかなり浸透してきているのではないかと感じています。

よくある質問として、「ビジネスプロセスマネジメント(BPM)やプロセスエクセレンスを進めるにはどうすればいいのか?具体的には何から始めればいいのか?」というものがあります。

こうした質問を投げかけてくる方の多くは、実際には求めている答えとして、「組織論」を期待して質問しています。

組織は、新たな動きやイニシアチブを進めるための基盤です。組織がなければ、責任が生じず、仮に組織を作らずに既存の役割に追加で別の役割としてBPM推進やプロセスエクセレンス推進といったものを持たせても、責任の所在が曖昧で期待したような効果は生まれないでしょう。

このような話をすると、「ではどういった組織が必要なのか?」という疑問が生まれます。そうしたときには、CoE(Center of Excellence)と呼ばれる専門知識を中央集権的に集約し、組織全体のかじ取りをするチームと、現場でBPMを実際に推進していくチームであるBPM Working Group、あるいはProcess Owner組織と呼ぶものを作ることが一般的であるという回答をすることが多いという状況にあります。

当然この2つのチームについて、「何をするチームなのか」という疑問も生まれてくるのですが、BPMやプロセスエクセレンスの取り組みを進め、成功に導くためには、それ以前に答えるべき質問、あるいは疑問に思ってほしいことがあります。

それは、どのようにしてBPMやプロセスエクセレンスに取り組む組織の必要性を関係者に納得させるか、というものです。

「こういった組織が必要であるようだ」、「このような役割分担であればうまく動くような気がする」、「では誰をその役割に据えようか」という思考の順序は自然なものですが、このような思考で実際に物事を動かしくていくには、特定の人物が全ての権限を握っているような組織でなくてはなりません。

仮にBPMやプロセスエクセレンスの必要性を強く認識している人物が組織のトップであるCEOであったとしても、それを周囲の取締役、事業本部長、さらに下のメンバーたちにきちんと伝えず、トップダウンで組織を作っていくということが出来るようなカルチャーを持った組織は日本企業では非常にレアケースとなるでしょう。

CEOであっても、周囲のメンバーに「なぜBPM、プロセスエクセレンスが重要なのか」、「なぜ今取り組む必要があるのか」を明確に伝え、共通の理解を作り、腹の底から納得しているという状況を作るように努力する必要があります。

CEOがBPM、プロセスエクセレンスの必要性を認識している場合は比較的シンプルな動き方になりますが、実際にはBPMやプロセスエクセレンスの必要性を認識しているのは経営層ではなく、ミドルマネジメント層であることが一般的でしょう。

この場合は、ミドルマネジメントからレポーティングラインを通じて「なぜBPM、プロセスエクセレンスが重要なのか」、「なぜ今取り組む必要があるのか」、根拠をもって伝達し、「だから組織が必要である」、すなわち「予算が必要である」ということを上申しなくてはいけません。レポーティングラインだけではなく、さらに組織の階層や壁を越えて合意形成を進めていく必要性が生じることもあるでしょう。

こうした道のりが見えた瞬間に、多くの人がどういうことを考えるでしょうか。多くの人は、この時点で「とてもではないが周囲を説得できるストーリーを作れない」と悩むのではないかと思います。

そこで、具体的にどの様なストーリーラインが求められるのか、私見を述べたいと思います。

求められるストーリーライン

BPMやプロセスエクセレンスに取り組むために、新たに組織を作る際に提示する情報や、活動計画書に求められるストーリーラインとは、以下のようなものだと考えます。

  • 組織が持つ長期ビジョン
  • 現状理解と課題提起
  • 取るべきアプローチ(これまでとの違い)
  • 期待される効果
  • 成功事例の共有(補足情報)
  • 支援の要求

どれが鍵になるのかといえば、取るべきアプローチ(これまでとの違い)でしょう。

BPMやプロセスエクセレンスは、説明を誤ると多くの日本企業においては「今までやってきたことと何が違うんだ?」という反応が待っています。

したがって、BPMやプロセスエクセレンスは組織がこれまでに取ってきた活動とは一線を画すものであるという点を、受け手の視点に立って十分に理解できるように説明できるストーリーラインにしなくてはいけません。

それでは、各アジェンダについて、簡単に述べていきます。

組織が持つ長期ビジョン

まず初めに、組織が向かおうとしている方向性や、達成しようと考えている目標、または既に判明している将来的に直面する問題などについて触れ、受け手にとってこの話が多かれ少なかれ関係するものであるということを示します。

短期のビジョンではいけません。BPMやプロセスエクセレンスは、中長期的に継続実践していくべきものであるため、その組織も中長期で存続する必要があります。したがって、ここで述べるべきビジョンも、長期のものである必要があります。

一般的には中期経営計画で示される組織の目標や重点施策、または有価証券報告書やアナリストレポートに記載されるリスク等を活用するということが出来ます。これらの情報のように組織として明文化している、または外部からそう理解されているもの以外にも、現場に漂う空気感や、事業部内で部長クラスの人物がよく口にするキーフレーズなどもインプットになります。

ここで示す組織のビジョンというのは、もちろん組織によって様々に異なるものとなりますが、BPM、プロセスエクセレンスという取り組みと関連付けがしやすいものといえば、一般的には以下のようなものがあるでしょう。

  • 人材の流出、減少への対象としての生産性向上、業務効率化、省人化
  • 拠点別にバラバラである業務の標準化と効率化
  • 低付加価値業務の見直しと高付加価値業務へのシフト
  • マニュアル作業の改善と業務自動化の促進
  • 部門別にサイロ化した業務の見直しと部門横断の業務改革

例えば、「2030年までに50%の省人化を行い、そのうえで年平均10%の成長を実現する」、といったビジョンがあれば、そのためにはより一層の効率化が必要であり、拠点別の差異も是正する必要があり、マニュアル作業は極力自動化し、業務は個別の部門で考えるのではなく部門横断で考えなくてはいけない、というようにストーリーを展開できます。

こうなれば、BPMやプロセスエクセレンスには話を繋げていくことは容易となります。

現状理解と課題提起

次に、組織のビジョンを理解したうえで現状はこうなっている、そして課題はここにある、ということを述べていきます。

現在の進め方や、活動状況に何の課題もないのであれば、今のまま進めればいいということになってしまいますので、その反対のことを言う必要があります。

すなわち、現在の姿や、これまでの取り組みを否定するようなことをここでは述べることになります。ここでも、組織によって様々な現状理解と課題提起が出来ますが、一般的にはどの様なことが言えるかをご紹介します。

  • 業務が属人化しており、ノウハウが暗黙知化されている。特定の人物にしか担当出来ない業務があることで全体の生産性、効率が低下している
  • 拠点別にバラバラである業務を見直す活動はあったが、効果が現れていない
  • 10年前から業務内容は変わらず、高付加価値業務へのシフトも起きていない
  • 多くの業務がマニュアル作業で実行されており、自動化は一部分のみにとどまる
  • 部門横断の業務改革の動きは過去にもあったが、外部のコンサルティングファームに依頼する形式で実行され、効果を生んでいるかというと曖昧である

例えば、「2030年までに50%の省人化を行うというビジョンの下、生産や加工の現場での改革は計画されているが、その前工程となる企画設計、調達、後工程である販売、請求等の業務が改革の対象とされていない」といった事実に触れたうえで、「これはEnd to Endでビジネスプロセスを洗練させるという意識が欠如しているということを意味するとともに、それが出来る役割や権限を持った人物が存在していないがために自然とこのような結論が導かれているものと考えられる」、とこのように課題にも触れていきます。

取るべきアプローチ(これまでとの違い)

課題について触れたうえで、ではどうすることが必要なのか、という意味で取るべきアプローチを主張します。

この時、過去の取り組みと同じことをもう一度やり直す、または実質的には同じであるものの違う言い方で表現しているだけ、という受け取り方がされないように注意が必要です。

BPMやプロセスエクセレンスの活動は、業務改善に強みを発揮してきた日本企業にとっては、「もう何十年も前からやっていることだ」と受け取られることもあるものです。そうならないように、明確に何が違うのか、という点を打ち出しましょう。

BPMやプロセスエクセレンスの活動が多くの組織で取られてきた活動と異なる点は、一般的には以下のようなものとなります。

  • 個別最適の取り組みでは無く、全体最適を追求し、End to Endの業務に目を向ける
  • As-Isに基づく漸進的な改善型の取り組み以外に、To-Be定義に基づくバックキャスト型の改革の取り組みを取り入れる
  • サイロ化した個別組織の取り組みに閉じず、機能や部門横断で活動を進める
  • サイクリックな活動を行うことを前提に業務パフォーマンス監視やKPIの評価をシステマチックに実施する
  • 個別の組織や取り組み別に手法が異なる、足並みが揃わないことがないようにガバナンスをかける
  • プロジェクト型の活動を行うが、成果物はプロジェクト完了後も他の業務で継続利用される、または別プロジェクトにおける重要なインプットのして活用する資産として扱う

すでに述べた通り、この部分が最も説明が難しいものとなります。組織の中でこれまでに業務改善に関わる活動が行われていないケースというのはほぼないでしょう。

したがって、そうした過去の活動との違いを明確にすることが重要です。

例えば、業務改善に強みを持つ組織であれば、「我々がこれまでに行ってきた業務改善は各課の人員による主体的な意見に基づくものであり、その結果として影響範囲が限られ小規模に留まることが大半であった。現在掲げる50%の省人化を実現するに当たっては、小規模改善の積み上げ型では限界があると考える。したがって、組織横断の改革に着手することが必要となる。また、他企業のベンチマーク結果より、単年度の改革によって効果を上げ、我々が業界における平均的な水準に到達することは現実的では無く、改革の取り組みは複数年にわたって定常的に進める必要があり、この点では専任の組織を構築しナレッジを蓄積していくことが必要不可欠と思われる」といった形でこれまでとは違うやり方が必要で、そのために組織が必要であるという主張が出来るでしょう。

期待される効果

組織が必要だという話をしているので、ここからは組織を持つことで期待される効果を述べていきます。

組織があることで期待できる効果には、一般的に以下のようなものがあります。

  • 業務の改革や、課題の管理に対する責任の所在が明確化する
  • 組織の取り組みの結果がナレッジとして蓄積され、活動のスピードや精度が高まる
  • 専門的な知識や技術、ツール活用の知見が蓄積される
  • 責任の所在が明確化することで意思決定に要する工数と時間が短縮される

ここで述べたような効果は、組織を新たに作らなくても出来るのではないか、という意見もあるでしょう。しかし、その意見には反対意見を述べたいと思います。

仮に組織を新設しない場合、どの様なことが起こるかといえば、これまでの仕事が継続される、これまでの仕事の延長としての改善活動が起こる可能性が非常に高い状態となります。

例えば、既に存在している業務をもう少し自動化する、機械化する、あるいは手戻りがなくなるようにチェックリストを作る、といった性質を持つ改善活動がアイデアとして出てくることになります。これはつまり、この業務はをやめるべきである、このステップを除外するべきではないか、やり方を大きく変えてみる、というアイデアが出にくくなることを意味します。

組織を持つことで、その組織に何をさせたいのかといえば、それは既存の機能や部門の軸ではなく、プロセスの軸で思考し改革のアクションを推進していくことにあります。これはすなわち個別最適の取り組みでは無く、全体最適を追求し、End to Endの業務に目を向けるということを意味するのですが、新たな視点を獲得するためには適切な立場と権限を持った人材が必要であり、その人材が所属する箱として組織が必要なのだといえるでしょう。

成功事例の共有(補足情報)

組織を作るという活動は、簡単な仕事ではありません。それでも実践し、効果を上げているという事例があると、組織の新設について理解を得ることが出来る可能性が高まります。

この点で、成功事例として、海外企業などを含む事例を活用するべきでしょう。

可能であれば、同じ業界の企業で成功事例を探したいところですが、日本ではBPMやプロセスエクセレンスの活動を推進しているケースは非常に稀なので、海外企業の事例を活用することが多くなるかと思います。

なお、BPM、プロセスエクセレンスを実践している企業の例を検索エンジンを用いて確認すると、海外企業としてはSiemens、SMS Group、Commonwealth Bank of Australia、Amazon等があり、日本企業では富士通、パナソニック、NEC等があります。

支援の要求

組織の必要性を主張した後は、組織を新設するために必要な支援の要求事項を伝達します。この段階では、組織の新設に向けたスポンサーの明確化が最も必要な支援となります。

こうした主張の後、すぐに組織が新設されるかというともちろんそうではありません。まだまだ、詰めていかなくてはいけないことがあります。そうした詳細化を進めるにあたって、組織内の多くの人員に対してヒアリングをかけることもあれば、詳細化した運用ルールや会議体の設計などをステークホルダーを集めて確認する場面が求められます。

そのような活動を進めるにあたっては、組織の中で権限を持つ特定の人物が責任をもってこの組織の新設に向けた検討活動をサポートするということが明確にされていると一気に進みやすくなります。

BPM、プロセスエクセレンスの実践ケースの多くでは、組織のCEO、COO等の権限を持つ人物が検討活動から実行までを継続的にサポートすることで推進力を生んでいますので、このクラスの人物にスポンサーになって頂くことが理想的ではあります。

その後の流れ

こうしたストーリーをもってミドルからトップ層へと報告、あるいは提案をした後の流れとしては、うまく進むのであれば組織の新設に向けて詳細化を進めていく、あるいは、経営層の納得が得られなければ再度根拠を持った説明を行う、あるいはここで発生したコメントや宿題事項への対応を進める、ということになっていきます。

終わりに

いかがでしたでしょうか。BPM、プロセスエクセレンスを推進する際に必要な組織を作る第一歩として、適切なストーリーラインを構築し、上申するということの必要性と、そのストーリラインについて私見を交えながら述べました。

今後も、BPM、プロセスエクセレンスに関連する具体的な活動内容や成果物、事例についても取り扱いたいと考えています。

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