突然ですが、皆様はビジネスプロセスマネジメント (BPM)という言葉を聞いたことはありますでしょうか。
筆者である私は、コンサルティングファームで勤務するなかで多くの企業のお客様の業務改革やシステム導入プロジェクト、あるいはM&Aを通じた事業統合のご支援をしてまいりましたが、いずれにおいてもビジネスプロセスマネジメントは重要な概念として認識されていました。
ビジネスプロセスマネジメントという言葉について、聞いたことはない、あまり馴染みがない、という方であっても、言葉の通りにとらえると、ビジネスプロセスをマネジメントする、という意味であろうということは想像に難くないかと思います。
ビジネスプロセスをマネジメントする、という表現ですと、どの企業でも当たり前のように実施している活動のように思えますが、昨今、多くの変化が企業を取り巻く環境に発生した結果、業務は複雑化し、わかりにくくなっている状況にあります。そのため、出来ていて当然とも思えるビジネスプロセスのマネジメントについて、課題を抱えている企業が多数存在するというのが実情です。
ビジネスプロセスマネジメントとは、まずはこうした状況を整理し、適切な業務の姿を描き、目標を設定、その目標の達成に向けて業務を継続的に変革していく試みを指します。 こちらの投稿では、BPMに取り組む意義について、解説をしていきます。
Agenda
想定読者
- 現在所属されている企業、部門、あるいはチームの現場の業務を改善したい、効率化したい方
- 複数の組織を横断的にマネジメントし、仕事の仕方、働き方の改革を推進する立場にある方
- ERPなどのシステム導入を通じて業務の効率化を考えている方
想定されるメリット
- BPMとはいったいどういったものを指すのか、その意義と必要性を説明出来るようになる
- BPMで実施する活動の内容、そこで求められる役割を説明出来るようになる
- BPMのライフサイクルにおける活動を具体例、作成する資料等の成果物も含めて明確に理解し、説明出来るようになる
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BPM:ビジネスプロセスマネジメントとは
BPM とは、ビジネスプロセスマネジメントの頭文字をとったものであり、言葉の通り、ビジネスプロセスをマネジメントするという意味を持ちます。ビジネスプロセスを継続的にマネジメントし、明らかになっているものや、潜在的なものも含め課題や問題を分析し、解消する、そうしてあるべき姿に近づけていくというサイクリックな活動を指し、また同時にそうした活動を進める際の方法論を指します。
皆様の中には、BPR ビジネスプロセスリエンジニアリングという言葉をご存知の方も多いかと思われますが、BPRはトップダウンで実施され、一度きりの大型プロジェクトの形式をとることも多いものであるのに対して、これにPDCAの要素を加え、継続性を持たせたもの、変革を常在化させたものがBPM であるという表現も出来ます。
ポイントは、一度きりの活動ではないということと、繰り返し実行することを重視するという部分にあります。 以上が、BPM:ビジネスプロセスマネジメントに関する概要説明となります。
BPMのステップ概要
BPMではさまざまな活動が実施されますが、それらは6つのステップに分けることができ、これをBPMのライフサイクルとも呼びます。ここでは、各ステップで行われる活動について、概要をご説明致します。
Identify
Identifyのステップでは、企業、あるいは組織の持つビジネスプロセスの棚卸が行われ、その中でどのプロセスを対象に後続のBPMの各ステップを実施するかが特定されます。
あらかじめ、問題となる箇所が明確である場合は問題を抱えたビジネスプロセスが特定されますが、問題の箇所も明確ではない場合には、そもそも自分達はどういったビジネスプロセスを持っているのか、構造をハイレベルで把握するところから始めることとなります。
Discover
Discoverのステップでは、Identifyのステップで特定されたBPMの対象プロセスに対して、現状を把握する活動が行われます。
現在、そのビジネスプロセスはどのように行われているのか、誰が何を責任として定義されているのか、部門間ではどのように仕事が受け渡されているのか、こういった情報が整理されます。こうした情報を整理したものとして、As-Is プロセスモデルという成果物を作成し、現在行われているビジネスプロセスについて、関係者間で認識の整合を行います。認識の整合がされることによって、後続の分析作業や、施策検討のディスカッションが効果的なものとなります。
Analyze
Analyzeのステップでは、Discoverのステップで理解したビジネスプロセスの姿を出発点として、パフォーマンスの分析、課題の特定、原因の考察、そして課題や問題を解消するオプションの検討が行われます。
各種分析作業には、ITソリューションを活用したアプローチが取られることが一般的となり、この部分を外部の協力会社に依頼するケースも一般的です。
課題や問題を解消するオプションについては、実行可能性、難易度、期待される効果などの複数の面で評価が行われ、優先順位の設定や、実装に移るオプションの採択が行われます。
Design
Design のステップでは、Analyzeのステップで検討された施策を実装した姿として、あるべき業務の姿を設計します。このとき、あるべき業務の姿をTo-Beプロセスモデルという成果物として作成し、この姿に至る方向性、そのために必要になるアクションなどについて、関係者間で合意形成を図ります。
現状のビジネスプロセスに変更をかけるということは、関係する部門の仕事の進め方がこれまでの方法から変化するということを意味するため、混乱を生じさせないために事前に入念な検討と、関係者間の認識整合がカギとなります。
Implement
Implementのステップでは、Designのステップで定義したあるべき業務の姿に至るため、組織の運営方法や、活用しているシステムの変更または新たなシステムの導入が行われます。組織の運営をいつから変更するのか、これまでに使用していたマニュアルはどう変えていくのか、組織の人々の評価方法なども変わってしまうのか、といったチェンジマネジメントの側面と、システムの導入に伴う設計・開発・テスト・トレーニングといった側面が存在します。
Monitor
Monitorのステップでは、implement のステップで実装した施策の状況を監視し、評価します。期待した通りの効果が出ているのか、出ていないのであればそれは何故で、どういった修正活動をとるべきなのか、というフォローアップの活動が行われます。
事前にAnalyzeのステップでパフォーマンスを分析していれば、パフォーマンスが改善したのかどうか、という観点での評価を行うことが一般的となります。一方で、事前に想定していなかった影響がどこかに発生していないか、という視点での監視も必要となります。
Monitorのステップ以後は、Discover、Analyze、Deign、とステップが循環し、こうしたサイクルが継続することでビジネスプロセスが最適化されていきます。
BPMに取り組む意義とは
それでは、BPMに取り組む意義、その必要性についてご紹介します。BPMが求められるようになっている背景を歴史的な部分も踏まえて解説しています。
現代に至るまでに発生した仕事の変化
産業革命の時代、分業によって仕事の能率を高めることが可能になるという発見がされます。
それまでは、限られた職人によって行われていた作業を分解し、いくつかの作業の塊に分けていくことで、全体としては仕事のスピードが上がり、品質も高まり、また単位時間あたりの生産量が増大する、ということが分かりました。この結果、多くの企業が分業を進めていきます。
分業が進むことで、それぞれの業務の担当者、あるいは専門家に相当する仕事が生まれていきます。こちらの画像は、Ford Motorの、分業制によって能率向上がおこなわれた車両製造、組み立てのプロセスの例です。
分業が進んだことにより、組織の姿も調達、生産、販売といった形式で仕事の内容をまとめなおしていくことが効率的となりました。機能別組織の登場です。 機能別の組織が作られるなかで、各組織の中でさらに分業が進み、業務、組織はサイロ化が進んでいきます。例えば、組織がビジネスユニット、その下にデパートメント、さらにグループに分かれ、チーム、またサブチーム、といった具合に分割がされていくという企業が登場していきます。
極端な分業、機能別の組織化に伴う弊害
こうした分業、機能別の組織化がさらに進んだことで、次第に企業の運営に弊害が発生します。
1つ目は、コミュニケーションの不足です。
分業によって、組織内の部門や機能の間でコミュニケーションが取られなくなり、同じ組織内にあってもお互いに何をしているのかまったく知りもしない、という状況が発生します。さらに、お互いの仕事については知りもしないという状況から、知る必要などそもそもない、協力する必要もない、という内向きのマインドセットが醸成され、コラボレーションをしてより望ましい仕事の仕方を追求していくという考えに至らなくなってしまいました。
2つ目は、意思決定の遅延です。
分業が進んだことにより、分業したそれぞれの仕事の塊を管理・監督する責任者が増えます。その結果、組織内での意思決定に関与しなくてはいけない当事者の数も増え、結果として調整が難航し、意思決定は遅れ、組織としての機動力を失うという自体が発生します。
3つ目は、コストの増大です。
分業によって、各部門・機能の担当者レベルの専門性は高まる一方で、それぞれの仕事のつながりの部分を見直すということがされず、古くからの仕事の仕方が継続されるということが発生します。次第に、何のためにこの仕事を実施しているのか、という点を理解しないまま付加価値を生まない内部の事情だけに基づく仕事が残ることとなり、非効率な仕事が発生していきます。
このように、当初は能率の向上を目的に実施していた分業、機能別の組織化によって、次第にデメリットが目立つようになってきたのです。
プロセス思考の登場
このような、極端な分業、機能別組織化によって生じた弊害を解消するための考え方として、プロセス思考というものが登場します。
このプロセス思考の登場に関連の強いとある事例をご紹介します。
1980年代、北米の大手自動車会社であるFordは、日本の自動車会社であるマツダを買収するのですが、Fordの経営陣は、マツダの視察した際、とある事実に驚愕します。
Fordでは500人の体制を組んでいた支払業務に関して、マツダはなんと100分の1の5名で仕事をさばいていたのです。当時のFordはマツダに比べて規模は大きかったものの、支払業務の体制のように100倍の規模ではなかったため、Fordの経営陣はマツダの支払業務を参考に、自身の支払業務の体制を大幅に見直すことを決意、その結果、500名の体制を125名までに削減することに成功します。
この事例は、マイケルハマー氏の著書であるリエンジニアリング革命にて触れられており、その中で、Fordが参考にしたマツダの業務はプロセス思考に基づき作られていたということが指摘されています。
Fordでは、支払業務の効率を向上させるという目的のもと、支払業務におけるマニュアル作成や、システム導入などの努力をしていました。特にFordが注力していたのは、発注伝票、受領書、そして請求書の照合業務の効率化でした。これら3つの伝票は、それぞれ項目が20種類以上存在し、それらが正しくマッチしていることを確認しないと、Fordとしては支払いに移れません。この照合作業が非常に労力を要するものであり、500名という体制につながっていたのです。
一方、マツダは、なんと5人の体制でこの業務を実行していました。Fordが視察に赴き、気づいたのは、支払業務の担当者はそもそも3つの伝票についての照合作業など実施していなかったということでした。
何が起きていたかといえば、マツダでは、発注書と同じものが注文した数量だけ届けられているかを確認し、そうでなければ受け取りを拒否し突き返す、問題が無ければ受け取る、というシンプルなプロセスが組まれていました。何も複雑なことはしていないプロセスですが、このプロセスにより、支払業務の担当者が受け取る請求書は、受け取り部門が既に発注書通りのものが、注文した数だけ届けられたことを確認済みである請求書になります。つまり、複数の項目の照合作業などをしなくても、支払業務担当者は請求書の金額が発注伝票と一致しているかだけを確認し、あとは支払うだけで済むのです。
このケースから得られる学びは、プロセスの全体を考えることの必要性であり、こうした思考法がプロセス思考と呼ばれます。
近年の環境変化に見るプロセス思考の重要性
近年発生している、ビジネス環境の急速な変化は、我々のプロセスを複雑化させています。
例えば、今やビジネスとデジタルは切っても切り離すことが出来ない状況にあり、早急なデジタル対応や、その先のデジタルトランスフォーメーションといった活動が求められています。外部環境の変化の一例としては、パンデミックの発生によって、人と人の接触を回避しなくてはならない必要性が生じ、これにともない仕事の仕方を変えざるを得ないという状況も発生しました。
このような変化に合わせ、顧客のニーズも変わり、企業もニーズにこたえるための仕組みを変化させていく必要性に駆られています。このような変化はいずれも、ビジネスプロセスを変化させ、複雑化させています。
こうした変化は、明確な意思をもったうえで、変化させようとして生じさせたものというよりもむしろ、環境の変化に対応するために変化せざるを得なかった、という性質のものが多数派となります。 このような変化が次々に起こる状況を放置すると、いずれ自分たちの業務であっても理解が及ばないという状況が発生します。すなわち、複雑化と、ブラックボックス化です。
複雑化と、ブラックボックス化が進むと、業務は理解不能となり、透明性を失います。そうなると、次第に自分たちが普段から接する業務だけを考えていればいい、他のことは面倒だ、という思考になっていきます。そうなると、Fordとマツダのケースでご紹介したような、Fordが支払業務のことだけを考えて大きな改善の機会に気づかずにいる、という事態が発生してしまいます。
したがって、今こそ、プロセス思考を働かせ、組織が持つプロセスを全体の視点で、End to Endで見て最適化を図るという取り組みが必要となります。
意志をもってビジネスプロセスをマネジメントする
明確な意思を持たない状況で、ただ外部の環境変化に合わせて、いやおうなくニーズに対応するという形式でビジネスプロセスを変化させていった場合、業務は複雑化、無秩序化、そしてブラックボックス化していきます。
これによって、次第に業務は理解不能となり、透明性を失い、変えたい時にうまく変えられない、どう変えればよいのかも分からない、という形で柔軟性も失われます。
結果として、外部環境の変化のスピードが早まるなかで、スピーディーに対応するというAgilityがなくなり、後手に回ることが増えます。
こうした状況から脱するには、あるいは陥ることを回避するには、外部環境にただたださらされ、ビジネスプロセスの変化にもさらされる、のではなく、意志をもってビジネスプロセスの変化をマネジメントすることが求められます。 すなわち、ビジネスプロセスマネジメントが必要なのです。
終わりに
いかがでしたでしょうか。BPMの基本的な説明として、BPMのステップ概要と、BPMに取り組む意義について解説させて頂きました。
繰り返しの宣伝で恐縮ですが、UdemyにてBPMの基礎的な内容を体系だって解説している動画を提供しております。ご興味頂けましたら、こちらもご確認頂けますと幸いです。
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