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M&Aアドバイザリーを辞めてきました - 辞めた理由・背景、今後について

昨日、M&Aアドバイザリーを辞めてきました。
仕事でお世話になった方々全員に直接ご挨拶に伺い、これまでのお礼や、ご迷惑をおかけしたことなどについてお話しし、また何かのご縁でお会いすることがあったら宜しくお願いします、という感じで退社してきました。

今回は、私がM&Aアドバイザリーを辞めた理由・その背景について書いていきたいと思います。先にざっくりとお話しすると、理由は想像していたよりもつまらなかったから、そしてキャリア開発のうえでメリットが少ないと感じたからです。

以降で、具体的にはどういった部分でつまらないと感じたのか、M&Aアドバイザリーの仕事内容と関連する形でなぜ私が辞める決断をしたのか、書いていきたいと思います。
やめる決断については、あとで見返したらまた違うとらえ方をすることになるかもしれませんが、昨日の退社日(正確には最終出社日)時点での気持ちを書いていきたいと思います。

※事前にお伝えしておくと、結構ネガティブな内容、ただ私が文句を言っているような内容になると思いますし、結構突っ込みどころのある内容になるかと思います。そのため、他人が何かにネガティブなコメントをしている、あるいは文句を言っているのを見ると気分が悪くなる方は見ることをストップして頂いたほうがいいかもしれません。

M&Aアドバイザリーをつまらないと感じた点 - 仕事内容は伝書バト・スーパー雑用、しかも効率が悪い

総合的に言えば、M&Aアドバイザリーは伝書バト、スーパー雑用のような側面があり、そしてお金を稼ぐうえでもキャリア開発の上でも効率が悪いと思っています。
私が実際にM&Aアドバイザリーをやってみて、つまらないと感じた点は、以下となります。以降のセクションでそれぞれを見ていきたいと思います。

  • 同じことの繰り返しというつまらなさ
  • 誰でもできる仕事をしているというつまらなさ、そして危機感
  • 数で稼ぐビジネスによる作業の長時間化

ちなみに、私はセルサイド案件のディールしか経験がなく、バイサイド案件についてはピッチブック(買収に関する提案書のようなもの)を作って事業会社、ファンドを訪問してご説明した程度の経験しかありません。しかし、仮にバイサイド案件をもっと経験したとしても、M&Aアドバイザリーを辞める決断は変わらなかっただろうなと思います。

同じことの繰り返しというつまらなさ

実際にやってみて思ったことの1つ目は、M&AのExecutionフェーズは教科書に書いてあるように進み、アドバイザリー自身が創意工夫する余地がほぼなく、同じことを高速で繰り返しているだけじゃないか、というものでした。
具体的にお話しするために、以下にM&Aの大枠の流れを記載します。

かなり簡略化したフローですが、大きく3つのフェーズに分かれることがわかると思います。どれが重要なのかというと、それはExecutionフェーズとなります。

その理由はM&Aアドバイザリーの報酬体系にありまして、多くのアドバイザリーが以下のような固定の報酬と、ディール締結時の成功報酬を収入としており、特にこの成功報酬が一番の収入源となります。そのため、M&Aアドバイザリーが最も注力するのはディール締結であり、当然Executionフェーズが重要な業務となります。(以下、参考例です) 

固定報酬(例) 400万円(4か月) 
成功報酬(例) ディール締結時の譲渡価格 × 4.5% (10億円であれば4500万円)
→合計 4900万円 ※4か月でExecutionが完了した場合

ちょっと前置きが長くなりましたが、このExecutionフェーズ、やることなどはほぼほぼ定まっていて、顧客が別でも、業界が別でも、アドバイザリーが行う作業は全く同じです。
例えば、以下のような作業を案件ごとに繰り返すことになります。

  1. 買い手候補、売り手候補をSpeeda、四季報、各種アナリストレポートなどの情報から探す
  2. 顧客と合意したアプローチ先へタッピングし、興味の度合いを探る
  3. 興味があればNDA締結し、初期情報を送付する
    ※初期情報はセルサイドであればBS, PL、CF計算書、事業概要、設備や知的財産のレポート、バイサイドであれば上記に加えて買収目的などのレポート
  4. 意向表明書(さらに検討を進めるかどうか記載されているもの)をやり取りし、基本合意をする
  5. デューデリジェンスを行い、買収対象の詳細を確認する
  6. 価格などを含む最終合意を行う

私は同時に3件のディールを担当したことがありましたが、その時の私の感覚としては、同じことを別の相手に繰り返し、創意工夫もなくただただ仕事をさばいていく、というもので、初めのうちは新鮮でしたが次第につまらないと感じるようになっていきました。

(以下、余談です)
3つのフェーズについて、Pre-M&AやPost-M&Aフェーズの契約と、Executionフェーズの契約は別であり、これらを一気通貫で実施するアドバイザリーというものはほぼほぼ存在しません。
例えば、Pre-M&Aの戦略立案は戦略コンサルティングファーム(マッキンゼーやBCGなど)が担当し、ExecutionはM&Aアドバイザリー(GCAやDTFAなど)、そしてPost-MA&は総合系コンサルティングファーム( アクセンチュア やDTCなど)が実施する、というイメージです。

総合系コンサルティングファームの中には、Pre-M&A, Execution, Post-M&Aのすべてを一気通貫で実施することをアピールしているところもありますが、確かにそれは依頼する側の視点では正しいです。ですが、仕事をする立場の視点としては、会社は同じでも組織が細分化されており、個人レベルではある特定の領域(Executionのデューデリジェンスだけ、など)にしか関与できないのが通常です。

だれでもできる仕事をしているというつまらなさ、そして危機感

2つ目ですが、M&Aアドバイザリーの仕事は、正直、誰にでもできるものだと思います。
私の経験した案件の都合上、主にセルサイドの例にはなりますが、以下が主な点になります。

  • 買い手候補や売り手候補を見つけるとき
    • Speeda、四季報、アナリストレポートなどを確認し、同業界の事業会社をまとめたロングリストを作る。
    • 顧客にロングリストを共有し、どの企業にアプローチすべきか絞り込みを依頼する
      ※当該業界についてはアドバイザリーよりも顧客のほうが詳しいので、アドバイザリーが独自の視点で絞り込みをかける、ということはしない
  • 企業価値評価をするとき
    • コストアプローチ、マーケットアプローチ、インカムアプローチで評価する
    • 追加論点として、人的資産、知的財産、機械設備の時価などを考慮する。
      ※これらの論点はどの顧客、どの業界でも大体同じ
  • デューデリジェンスをするとき
    • 買い手候補から挙げられた質問内容を売主へ転送し、回答案を準備して頂く
    • 回答案を確認し、これまでの提出済み回答との整合、開示済み資料との整合を確認し、問題がなければ買い手候補へ提出する
      質問に対してアドバイザリーが回答することはない。デューデリジェンスでは事業に関する質問が挙げられるが、当然ながら当該事業に詳しいのはアドバイザリーではなく売主なので、売主が回答案を準備する
  • トップ面談をするとき
    • アドバイザリーは買い手と売り手の日程調整をする
    • トップ面談当日、アドバイザリーとして面談の場に同席し、会議進行の役割を担う
      ※面談においてアドバイザリーが話すことはほぼないため、アドバイザリーが同席する意味がほぼない
  • 契約締結をするとき
    • 契約書は法律事務所に作成を依頼する
    • 作成された契約書ドラフトは、法律事務所、買い手あるいは売り手企業の法務部で確認をしてから、相手企業(売り手あるいは買い手)との協議に進む
      ※アドバイザリーは一応同席するが、アドバイザリーが行う作業はない

実際のところ、M&Aアドバイザリーの仕事は全体の進捗管理という側面が強く、スケジュール通りに事が進んでいるかどうかをメールでフォローアップし、電話でフォローアップし、作業自体は他の誰かにやってもらう、というものだと感じています。(感覚的には7割がたがメールを送りまくるという作業でした)

私なりの言い方ですがM&Aアドバイザリーは伝書バト、スーパー雑用だと思うのです。
これはつまらないですし、特定のスキルが伸びていく感覚もなかったためこのままではいけないという危機感を持ちました。

数で稼ぐビジネスによる作業の長時間化

これは、上記2点とも密接に関係する内容です。
どのような報酬体系になっているかという点でもお話ししましたが、アドバイザリー企業が収益を上げるには、ディール締結が必要であり、そのためにはどれだけ案件数を増やすことができるか、これが重要となります。

アドバイザリー企業の収益 
= 関与案件数 × 平均固定報酬 
+ 関与案件数 × 平均ディール締結率(%) × 平均案件規模(金額) × 平均成功報酬割合(%)

そこで、アドバイザリー企業の経営陣はどれだけ案件に関与するかをKPIとして、企業全体としてひたすらに案件数(そのうちの何割かがディール締結に至る)を取りに行くようになります。

こうして案件数が増えていくと、ここまででお話しした、M&Aアドバイザリーの仕事は高速で、誰でもできるような同じことを繰り返すものだという点にさらに拍車がかかっていきます。
つまり、案件数の増加に伴い、個人個人のリソースの問題解決や効率性追求のためにもM&Aアドバイザリーの仕事内容はより誰でもできるような単純作業に閉じ、より繰り返しの側面が強くなるのです。

数で稼ぐビジネスは、必然的に作業の長時間化を促進します。
私自身は月の平均残業時間が250時間で、これでも社内では中間でした。残業代などはもらうこともできましたが、ここまでプライベートの時間を捨てて仕事しているのに、たいしてスキルや業界専門知識が身につかない上につまらないという状況に対して、次第に耐え切れなくなっていきました。

今後について - どんな仕事をやりたいのか

これまでにお話ししてきた内容が理由・背景となり、私は自分が求めている仕事内容とM&Aアドバイザリーの業務にギャップを感じ、やめる決断をしました。

もともと、自分自身でどんな仕事をやりたいのか明確に考えずにM&Aアドバイザリーを始めてしまったことがこうしてギャップを感じた原因だと思うので、今後、私は自分自身がどんな仕事をやりたいのか、現時点の考えを書いて本投稿は以上としたいと思います。

  • 自分で責任をもって決断する、自分の裁量で進めることができること
  • 高度に専門的な技術、業界の知識を必要とすること
  • 新しいものに触れる、取り入れる姿勢が必要なこと
  • 自分で何か作ること

次の仕事では、スタートアップ企業の社内システムを構築します。
上記4点は十分に満たしているのではないかと思っていますが、またギャップを感じたときは、この投稿で書いた内容を振り返ってみて、再度自分にとって楽しい仕事とは何なのか、考えてみたいと思います。

最後になりますが、M&Aアドバイザリーはやめる決断をしたものの、M&Aアドバイザリーをやっているといいこともあります。また、企業価値評価は奥が深く、アカデミックな内容も結構好きです。学び直しとして企業価値評価についての投稿も続けますし、M&Aアドバイザリーをやっているといいことについても、また投稿したいと思っています。

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