こちらの投稿では、現在コンサルで業務プロセス設計およびSAP導入をしている投稿者が、販売管理業務のシナリオをまとめております。
販売管理業務と一口に言っても、取り扱うものによっては管理する際の方法やプロセスフローも異なりますので、それらのシナリオを分ける要素と、結果としてどのようなシナリオが一般的に存在するのか、といった点をまとめております。
他にもSAPにおけるSCM領域の記事を投稿しておりますので、気になる方はSCM関連記事のまとめをご覧ください。販売管理の業務については、こちらに関連記事をまとめております。
また、こちらの記事は業務よりの目線で記述していますが、よりSAPの目線で販売管理について確認されたい方も同様に関連記事をご確認ください。
Agenda
本投稿の想定読者
- SAP導入プロジェクトで販売管理領域を担当されるコンサルタント、システム部門の方
- SCM領域のうち、特に販売管理領域について知りたい方
期待できるメリット
- 販売管理領域における業務プロセスがわかる
- 販売管理領域のシナリオの要素がわかる
販売管理業務のシナリオを分ける要素とは?
まずは以下の図をご覧ください。販売管理業務のシナリオを分ける要素として、主なものは以下の3つであると考えています。
物品が存在するか?
初めに販売管理のシナリオを分ける要素は、物品が存在するかどうか、です。
売るものが、ものとして物理的に存在するものか、それともそういったものではなくサービスの提供やソフトウェアのライセンス供給などの物理的に存在しないものなのか、という分け方になります。
物理的に存在する製品や商品を販売する場合は、在庫の確認や製造現場の製造スケジュールを確認して、期日までに販売するための商品や製品が準備できそうなのか、という点を確認する必要があります。もし、不足があった場合は他の拠点から在庫転送をする、緊急で製造を行うように依頼をする、あるいはパートナーである他社にサポートしてもらう、といったことが必要になってきます。これらは3つ目の要素である、供給方法に関連します。
もし、物理的に存在するものではなく、人を介して提供するサービスを販売する場合はそもそもそうした人を用意することが出来るのか、という確認が必要になってきます。受注しても、サービスを提供する人が用意できない、ということになると受注しておきながら契約不履行となってしまいます。なお、ソフトウェアのライセンスの場合は、受注後は適切な処理をかけるだけで労力無く提供することが可能です。
契約形態と収益認識は?
2つ目の販売管理のシナリオを分ける要素は、契約形態と収益認識の基準です。以下の4つがあるかと考えられます。
- 出荷時点で認識
- 検収時点で認識
- 期間に応じて認識
- 実績に応じて認識
出荷時点で認識するという契約形態は、単純な物品の販売のケースが該当します。例えば靴やカバンなどの輸入を行い、百貨店に対して販売するという業者さんがいたとすると、この業者さんは商品を自社の倉庫から配送先の百貨店さんに向けて出荷した時点で収益を認識することが出来ます。
検収時点で認識するという契約形態は、サービスの提供が該当します。サービスの提供をする場合は、いつからいつまでの期間の中で、どういった作業をするか、ということを事前に明確に定義します。この事前に定義した内容に沿ってサービスが提供された場合は、サービスの提供を受けた側があらかじめ定めた契約期間の終わりにサービスを受けたことの確認をします。これを検収と言います。この研修が終わることで、サービスの提供が完了したことを意味するので、この時点で収益の認識が可能となります。ちなみに品質がよくない、といった理由で検収が予定よりも遅くなるといったことはよくあります。
期間に応じて認識する方法は、リース契約をしている場合、レンタルサービスを提供している場合、定額利用のサービスを提供している場合などが該当します。毎月いくらを支払ってもらう、という契約形態ですね。この場合は、月次請求であれば毎月末時点で収益を認識することになります。
実績に応じて認識するのは、従量課金制度を取っている契約形態です。例を挙げると具体的になってきますが、レンタルサーバーを利用している場合、サーバーに格納しているデータの容量や、サーバーとの間でUpload/Downloadをしたデータの容量に応じて課金がされる、といった契約形態が選択できることがあります。これが、利用した分だけ、あらかじめ決めたルールにのっとって請求をするという従量課金です。この形態の場合は、利用実績の集計を月次であれば毎月末時点で行い、その結果をもって収益を認識します。
その他の例では、3PLなどの倉庫を利用させて頂いている場合、倉庫の利用床面積に応じて請求する、という形態もありますし、医療機器やプリンターを借りている場合は何回使用したか、といった階数に応じて請求するという形態もあります。
供給方法は?
3つ目の要素は、販売をすることになった際の供給方法です。以下の4つのパターンがあるかと思います。
- 自社の在庫を供給
- 自社で製造して供給
- 自社のサービスを供給
- パートナー企業に依頼をして供給
自社の在庫を供給するのはイメージがしやすいパターンですね。受注したら、自社の倉庫にある在庫を出荷することでお客様に納品します。ここでは、すでに在庫になっているケースを想像して下さい。Supplierさんから仕入れたものをそのまま商品として売るケース、あるいは、事前にある程度生産して在庫にしておいて売る、というケースになります。
とくに後者の、事前にある程度生産して在庫にした状態で売る、という業態をMake to Stock、あるいは見込み生産と言います。
自社で製造して供給するというパターンは、受注したら、受注した内容に合わせて製造を行い、製造したものを出荷するというケースです。自社の在庫を供給しているととらえることもできるのですが、重要なのは、もとから在庫として存在しているものではなく、受注してから作り始めているという点です。
顧客別が求めるスペック、仕様が異なるので見込み生産が実施できないというケースでは、この業態がとられます。受注があってから製造が始まるので、この業態はMake to Order、受注生産と言います。個別性の高いものを扱う、プラントエンジニアリング、建設業、あるいはオーダーメイドのスーツを販売する企業等が該当します。
自社のサービスを供給するというパターンは、受注したら自社の人員を割り当てサービスを提供するというケースです。サービス提供のために空き人員がきちんといるか、という点を確認する必要があります。ソフトウェアライセンスの供給を行うというケースですと、いわば在庫も人員も必要ないのでそのまま提供できることになります。
パートナー企業に依頼して供給するというのは、受注はしたものの自社では在庫を用意できない、製造する余力もない、サービス提供の人員にも空きがない、という場合に他社に協力依頼をすることで、お客様の要求する商品、製品、あるいはサービスを提供するというケースです。
もしくは、そもそも自社は受注だけする仲介のような役割をしていて、在庫も持たない、製造もしない、サービスの提供もしない、という業態の場合は緊急事態ではなくても常にパートナー企業に依頼をしてお客様からの受注にこたえる、という思想の会社もあります。
主な販売シナリオ一覧
それでは、主な販売のシナリオをの一覧を見てみましょう。以下に図解しています。
一部、MECEではないものもあるのですが、MECEに表現しようとすると、品目の特性ごとに分ける必要が出てきてしまうため、簡便的なまとめ方にしている点をご了承ください。
なお、プロセスフローは別投稿にまとめておりますので、よろしければそちらもご確認ください。
在庫販売
在庫販売は一番イメージしやすいケースかと思います。受注したら、自社の持つ在庫を出荷することで、お客様の希望商品、製品をお届けします。出荷した時点で、収益を認識します。
在庫は、受注時点で既に存在している点が後の製造販売のシナリオとの違いとなります。
製造販売
製造販売は、お客様から受注を受けたら、その内容に従って製造を開始します。製造が完了したら、そうして出来上がった製品を出荷することで収益を認識します。
製品は、受注時点ではまだ出来上がっていない点が在庫販売との違いとなります。
リース、レンタル
リース、レンタルでは、在庫をお客様にお届けしますが、出荷時点ではまだ収益を認識しません。リース、レンタルのシナリオではあらかじめ期間を定めておき、その期間に応じて収益を認識していくこととなります。
リースはオペレーティングリースとキャピタルリースにさらに分割されますが、その違いはリースを活用する側の会計処理のによるところがおおきいので、ここでは割愛致します。
預託品販売
預託品販売は、お客様に対してまず預託を行います。預託とは、預けておくということを意味して、その後、実際にお客様が預けられていた品物を消費する、使用することで、その実績を用いて収益を認識します。
例としては、オフィスに対するお菓子の提供サービスがあります。お菓子の提供側である企業は顧客のオフィスにお菓子をひとまず置いておきます。この時点では収益は認識しません。その後、オフィスの従業員の方がお菓子を食べる、つまり消費することで、いくつのお菓子が実際に利用されたのか、が計算できます。あとは、計算された消費量に応じてお菓子の代金を請求し、収益を認識するという流れとなります。
サービス、ライセンス提供
サービス、ライセンス提供では、お客様に対して物理的には存在しないサービス、ソフトウェアライセンスといったものを提供します。収益を認識する方法は様々あり、検収で認識する方法、契約期間で認識する方法、実績に応じて認識する方法があります。
あらかじめ定めた期間でサービスを提供し、こういった成果物を収めること、というように決めていた契約では、お客様の検収完了によって収益を認識することになります。
あるいは、契約期間を定めておき、毎月定額で請求します、ということを決めていたサービス提供の契約やソフトウェアライセンスの利用契約の場合は契約期間に応じて認識することとなります。
さらには、サービスに従事した時間に応じて請求する、ソフトウェアライセンスであれば利用時間や利用データ容量に応じて請求する、という実績に応じて認識する方法もあります。
なお、ソフトウェアライセンスの場合、期間や実績に応じて請求するのではなく、一度買ってもらったらあとは使いたい放題、という形態で販売されているケースも存在します。そういうケースは、収益認識の方法としては出荷時点で認識するものに近いと思いますが、今後のメジャーなケースは期間や実績に応じての請求となると見込まれています。
仕入れ先直送、製造委託
仕入れ先直送、製造委託とは、商品の販売や製品を販売するときに、自社では対応せずに、パートナー企業の他社に代わりに対応をしてもらうというケースです。
在庫が無い、製造の余力がない、という緊急事態に選択されるシナリオである場合と、いつもこういった業態を行っているケースが存在します。
仕入れ先直送では、顧客からの受注を受けたら、その商品を販売しているSupplierさんに依頼し、顧客の住所あてに発送を依頼します。製造委託では、顧客からの受注を受けたら、その製品を製造している企業に製造の依頼をし、その後顧客の住所あてに発送を依頼します。なお、出荷時点で収益を認識します。
他社から直接顧客宛に発送するのではなく、一度自社の倉庫で受け取り、自社独自の梱包などをしてから、顧客に発送するという対応をする企業もあります。これは、顧客から受注を受けたのは自社であるので、顧客にとっては他社が実際には供給してくれているということを知ってほしくないときなどに実施されます。
下請け
下請けは、受注したサービスを自社で提供するのではなく、パートナー企業の他社に対応をしてもらうケースです。収益の認識基準はサービス提供のシナリオと同様ですが、提供の主体が他社であるという違いがあります。
このケースも、普段であれば自社の人員で対応するところ、人手が足りないので代わりに他社に対応してもらう、というケースもあれば、いつも受注したら他社に依頼をしている、という業態の企業もいます。
終わりに
以上が、販売管理のシナリオを分ける要素、そして主な販売管理シナリオでした。プロセスフローも別の記事にまとめていますので、まとめ記事からご確認頂けますと幸いです。